前に戻る マタイ傳 🔝

 

〘1㌻〙

第1章

1 アブラハムの子こ、ダビデの子こ、イエス・キリストの系圖󠄃けいづ。

2 アブラハム、イサクを生うみ、イサク、ヤコブを生うみ、ヤコブ、ユダとその兄弟きゃうだいらとを生うみ、 3 ユダ、タマルによりてパレスとザラとを生うみ、パレス、エスロンを生うみ、エスロン、アラムを生うみ、 4 アラム、アミナダブを生うみ、アミナダブ、ナアソンを生うみ、ナアソン、サルモンを生うみ、 5 サルモン、ラハブによりてボアズを生うみ、ボアズ、ルツによりてオベデを生うみ、オベデ、エツサイを生うみ、 6 エツサイ、ダビデ王わうを生うめり。   ダビデ、ウリヤの妻つまたりし女をんなによりてソロモンを生うみ、

7 ソロモン、レハベアムを生うみ、レハベアム、アビヤを生うみ、アビヤ、アサを生うみ、 8 アサ、ヨサパテを生うみ、ヨサパテ、ヨラムを生うみ、ヨラム、ウジヤを生うみ、 9 ウジヤ、ヨタムを生うみ、ヨタム、アハズを生うみ、アハズ、ヒゼキヤを生うみ、 10 ヒゼキヤ、マナセを生うみ、マナセ、アモンを生うみ、アモン、ヨシヤを生うみ、 11 バビロンに移うつさるる頃ころ、ヨシヤ、エコニヤとその兄弟きゃうだいらとを生うめり。

12 バビロンに移うつされて後のち、エコニヤ、サラテルを生うみ、サラテル、ゾロバベルを生うみ、 13 ゾロバベル、アビウデを生うみ、アビウデ、エリヤキムを生うみ、エリヤキム、アゾルを生うみ、 14 アゾル、サドクを生うみ、サドク、アキムを生うみ、アキム、エリウデを生うみ、 15 エリウデ、エレアザルを生うみ、エレアザル、マタンを生うみ、マタン、ヤコブを生うみ、 16 ヤコブ、マリヤの夫をっとヨセフを生うめり。此このマリヤよりキリストと稱󠄄となふるイエス生うまれ給たまへり。
 1㌻ 

17 されば總󠄂すべて世よをふる事こと、アブラハムよりダビデまで十四代じふよだい、ダビデよりバビロンに移うつさるるまで十四代じふよだい、バビロンに移うつされてよりキリストまで十四代じふよだいなり。

18 イエス・キリストの誕󠄅生たんじゃうは左さのごとし。その母ははマリヤ、ヨセフと許嫁いひなづけしたるのみにて、未いまだ偕ともにならざりしに、聖󠄃せい靈れいによりて孕みごもり、その孕みごもりたること顯あらはれたり。 19 夫をっとヨセフは正たゞしき人ひとにして之これを公󠄃然おほやけにするを好このまず、私ひそかに離緣りえんせんと思おもふ。 20 斯かくて、これらの事ことを思おもひ囘めぐらしをるとき、視みよ、主しゅの使󠄃つかひ、夢ゆめに現あらはれて言いふ『ダビデの子こヨセフよ、妻つまマリヤを納󠄃いるる事ことを恐おそるな。その胎たいに宿やどる者ものは聖󠄃せい靈れいによるなり。〘1㌻〙 21 かれ子こを生うまん、汝なんぢその名なをイエスと名なづくべし。己おのが民たみをその罪つみより救すくひ給たまふ故ゆゑなり』 22 すべて此この事ことの起󠄃おこりしは、預言者よげんしゃによりて主しゅの云いひ給たまひし言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。曰いはく、 23 『視みよ、處女をとめみごもりて子こを生うまん。 その名なはインマヌエルと稱󠄄となへられん』之これを釋とけば、神かみわれらと偕ともに在いますといふ意こゝろなり。 24 ヨセフ寐ねむりより起󠄃おき、主しゅの使󠄃つかひの命めいぜし如ごとくして妻つまを納󠄃いれたり。 25 されど子この生うまるるまでは、相あひ知しる事ことなかりき。斯かくてその子こをイエスと名なづけたり。

第2章

1 イエスはヘロデ王わうの時とき、ユダヤのベツレヘムに生うまれ給たまひしが、視みよ、東ひがしの博󠄄士はかせたちエルサレムに來きたりて言いふ、 2 『ユダヤ人びとの王わうとて生うまれ給たまへる者ものは、何處いづこに在いますか。我われら[*]東ひがしにてその星ほしを見みたれば、拜はいせんために來きたれり』[*或は「その星の上れるを見たれば」と譯す。] 3 ヘロデ王わうこれを聞ききて惱なやみまどふ、エルサレムも皆みな然しかり。 4 王わう、民たみの祭司長さいしちゃう・學者がくしゃらを皆みなあつめて、キリストの何處いづこに生うまるべきを問とひ質たゞす。 5 かれら言いふ『ユダヤのベツレヘムなり。それは預言者よげんしゃによりて、
 2㌻ 
6 「ユダの地ちベツレヘムよ、汝なんぢは ユダの[*]長をさ等たちの中うちにて最いと小ちひさき者ものにあらず、 汝なんぢの中うちより一人ひとりの君きみいでて、 わが民たみイスラエルを牧ぼくせん」と錄しるされたるなり』[*或は「町」と譯す。]

7 ここにヘロデ密ひそかに博󠄄士はかせたちを招まねきて、星ほしの現あらはれし時ときを詳細つまびらかにし、 8 彼かれらをベツレヘムに遣󠄃つかはさんとして言いふ『往󠄃ゆきて幼兒をさなごのことを細こまかにたづね、之これにあはば我われに吿つげよ。我われも往󠄃ゆきて拜はいせん』 9 彼かれら王わうの言ことばをききて往󠄃ゆきしに、視みよ、前󠄃さきに[*]東ひがしにて見みし星ほし、先さきだちゆきて、幼兒をさなごの在いますところの上うへに止とゞまる。[*或は「その上れるを見たる星」と譯す。] 10 かれら星ほしを見みて、歡喜よろこびに溢󠄃あふれつつ、 11 家いへに入いりて、幼兒をさなごのその母ははマリヤと偕ともに在いますを見み、平󠄃伏ひれふして拜はいし、かつ寳たからの匣はこをあけて、黃金わうごん・乳󠄃香にうかう・沒藥もつやくなど禮物れいもつを獻さゝげたり。 12 斯かくて夢ゆめにてヘロデの許もとに返󠄄かへるなとの御吿みつげを蒙かうむり、ほかの路みちより己おのが國くにに去さりゆきぬ。

13 その去さり往󠄃ゆきしのち、視みよ、主しゅの使󠄃つかひ、夢ゆめにてヨセフに現あらはれていふ『起󠄃おきて、幼兒をさなごとその母ははとを携たづさへ、エジプトに逃󠄄のがれ、わが吿つぐるまで彼處かしこに留とゞまれ。ヘロデ幼兒をさなごを索もとめて亡ほろぼさんとするなり』 14 ヨセフ起󠄃おきて、夜よの間まに幼兒をさなごとその母ははとを携たづさへて、エジプトに去さりゆき、〘2㌻〙 15 ヘロデの死しぬるまで彼處かしこに留とゞまりぬ。これ主しゅが預言者よげんしゃによりて『我われエジプトより我わが子こを呼よび出いだせり』と云いひ給たまひし言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。

16 爰こゝにヘロデ、博󠄄士はかせたちに賺すかされたりと悟さとりて、甚はなはだしく憤いきどほり、人ひとを遣󠄃つかはし、博󠄄士はかせたちに由よりて詳細つまびらかにせし時ときを計はかり、ベツレヘム及および凡すべてその邊󠄎ほとりの地方ちはうなる二に歳さい以下いかの男をとこの兒こをことごとく殺ころせり。 17 ここに預言者よげんしゃエレミヤによりて云いはれたる言ことばは成󠄃就じゃうじゅしたり。曰いはく、 18 『聲こゑラマにありて聞きこゆ、 慟哭なげきなり、いとどしき悲哀かなしみなり。 ラケル己おのが子こらを歎なげき、 子こ等らのなき故ゆゑに慰なぐさめらるるを厭いとふ』
 3㌻ 

19 ヘロデ死しにてのち、視みよ、主しゅの使󠄃つかひ、夢ゆめにてエジプトなるヨセフに現あらはれて言いふ、 20 『起󠄃おきて、幼兒をさなごとその母ははとを携たづさへ、イスラエルの地ちにゆけ。幼兒をさなごの生命いのちを索もとめし者ものどもは死しにたり』 21 ヨセフ起󠄃おきて、幼兒をさなごとその母ははとを携たづさへ、イスラエルの地ちに到いたりしに、 22 アケラオその父󠄃ちちヘロデに代かわりて、ユダヤを治をさむと聞きき、彼處かしこに往󠄃ゆくことを恐おそる。また夢ゆめにて御吿みつげを蒙かうむり、ガリラヤの地方ちはうに退󠄃しりぞき、 23 ナザレといふ町まちに到いたりて住󠄃すみたり。これは預言者よげんしゃたちに由よりて、彼かれはナザレ人びとと呼よばれん、と云いはれたる言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。

第3章

1 その頃ころバプテスマのヨハネ來きたり、ユダヤの荒野あらのにて敎をしへを宣のべて言いふ 2 『なんぢら悔改くいあらためよ、天國てんこくは近󠄃ちかづきたり』 3 これ預言者よげんしゃイザヤによりて、斯かく云いはれし人ひとなり、曰いはく 『荒野あらのに呼よばはる者ものの聲こゑす 「主しゅの道󠄃みちを備そなへ、 その路みちすぢを直なほくせよ」』 4 このヨハネは駱駝らくだの毛織衣けおりごろもをまとひ、腰󠄃こしに皮かはの帶おびをしめ、蝗いなごと野蜜のみつとを食󠄃しょくとせり。 5 爰こゝにエルサレム及およびユダヤ全󠄃國ぜんこくまたヨルダンの邊󠄎ほとりなる全󠄃地方ぜんちはうの人々ひとびと、ヨハネの許もとに出いできたり、 6 罪つみを言いひ表あらはし、ヨルダン川がはにてバプテスマを受うけたり。 7 ヨハネ、パリサイ人びとおよびサドカイ人びとのバプテスマを受うけんとて、多おほく來きたるを見みて、彼かれらに言いふ『蝮まむしの裔すゑよ、誰たが汝なんぢらに、來きたらんとする御怒みいかりを避󠄃さくべき事ことを示しめしたるぞ。 8 さらば悔改くいあらために相應ふさはしき果みを結むすべ。 9 汝なんぢら「われらの父󠄃ちちにアブラハムあり」と心こゝろのうちに言いはんと思おもふな。我われなんぢらに吿つぐ、神かみは此これらの石いしよりアブラハムの子こらを起󠄃おこし得給えたまふなり。〘3㌻〙 10 斧をのははや樹きの根ねに置おかる。されば凡すべて善よき果みを結むすばぬ樹きは、伐きられて火ひに投なげ入いれらるべし。 11 我われは汝なんぢらの悔改くいあらためのために、水みづにてバプテスマを施ほどこす。されど我われより後のちにきたる者ものは、我われよりも能力ちからあり、我われはその鞋くつをとるにも足たらず、彼かれは聖󠄃せい靈れいと火ひとにて汝なんぢらにバプテスマを施ほどこさん。
 4㌻ 
12 手てには箕みを持もちて禾場うちばをきよめ、その麥むぎは倉くらに納󠄃をさめ、殼からは消󠄃きえぬ火ひにて燒やきつくさん』

13 爰こゝにイエス、ヨハネにバプテスマを受うけんとて、ガリラヤよりヨルダンに來きたり給たまふ。 14 ヨハネ之これを止とゞめんとして言いふ『われは汝なんぢにバプテスマを受うくべき者ものなるに、反かへつて我われに來きたり給たまふか』 15 イエス答こたへて言いひたまふ『今いまは許ゆるせ、われら斯かく正たゞしき事ことをことごとく爲遂󠄅しとぐるは、當然たうぜんなり』ヨハネ乃すなはち許ゆるせり。 16 イエス、バプテスマを受うけて直たゞちに水みづより上あがり給たまひしとき、視みよ、天てんひらけ、神かみの御靈みたまの、鴿はとのごとく降󠄄くだりて己おのが上うへにきたるを見み給たまふ。 17 また天てんより聲こゑあり、曰いはく『これは我わが愛いつくしむ子こ、わが悅よろこぶ者ものなり』

第4章

1 爰こゝにイエス御靈みたまによりて荒野あらのに導󠄃みちびかれ給たまふ、惡魔󠄃あくまに試こゝろみられんと爲するなり。 2 四十しじふ日にち、四十しじふ夜や、斷食󠄃だんじきして、後のちに飢󠄄うゑたまふ。 3 試こゝろむる者ものきたりて言いふ『なんぢ若もし神かみの子こならば、命めいじて此これ等らの石いしをパンと爲ならしめよ』 4 答こたへて言いひ給たまふ『「人ひとの生いくるはパンのみに由よるにあらず、神かみの口くちより出いづる凡すべての言ことばに由よる」と錄しるされたり』 5 ここに惡魔󠄃あくまイエスを聖󠄃せいなる都みやこにつれゆき、宮みやの頂上いたゞきに立たたせて言いふ、 6 『なんぢもし神かみの子こならば己おのが身みを下したに投なげよ。それは 「なんぢの爲ために御使󠄃みつかひたちに命めいじ給たまはん。 彼かれら手てにて汝なんぢを支󠄂さゝへ、その足あしを 石いしにうち當あつること無なからしめん」と錄しるされたるなり』 7 イエス言いひたまふ『「主しゅなる汝なんぢの神かみを試こゝろむべからず」と、また錄しるされたり』
 5㌻ 
8 惡魔󠄃あくままたイエスを最いと高たかき山やまにつれゆき、世よのもろもろの國くにと、その榮華えいぐわとを示しめして言いふ、 9 『なんぢ若もし平󠄃伏ひれふして我われを拜はいせば、此これ等らを皆みななんぢに與あたへん』 10 爰こゝにイエス言いひ給たまふ『サタンよ、退󠄃しりぞけ「主しゅなる汝なんぢの神かみを拜はいし、ただ之これにのみ事つかへ奉まつるべし」と錄しるされたるなり』 11 ここに惡魔󠄃あくまは離はなれ去さり、視みよ、御使󠄃みつかひたち來きたり事つかへぬ。

12 イエス、ヨハネの囚とらはれし事ことをききて、ガリラヤに退󠄃しりぞき、〘4㌻〙 13 後のちナザレを去さりて、ゼブルンとナフタリとの境さかひなる海邊󠄎うみべのカペナウムに到いたりて住󠄃すみ給たまふ。 14 これは預言者よげんしゃイザヤによりて云いはれたる言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。曰いはく 15 『ゼブルンの地ち、ナフタリの地ち、 海うみの邊󠄎ほとり、ヨルダンの彼方かなた、 異邦󠄆人いはうじんのガリラヤ、 16 暗󠄃くらきに坐ざする民たみは、大おほいなる光ひかりを見み、 死しの地ちと死しの蔭かげとに坐ざする者ものに、光ひかりのぼれり』

17 この時ときよりイエス敎をしへを宣のべはじめて言いひ給たまふ『なんぢら悔改くいあらためよ、天國てんこくは近󠄃ちかづきたり』

18 斯かくて、ガリラヤの海邊󠄎うみべをあゆみて、二人ふたりの兄弟きゃうだいペテロといふシモンとその兄弟きゃうだいアンデレとが、海うみに網󠄄あみ打うちをるを見み給たまふ、かれらは漁人すなどりびとなり。 19 これに言いひたまふ『我われに從したがひきたれ、然さらば汝なんぢらを人ひとを漁すなどる者ものとなさん』 20 かれら直たゞちに網󠄄あみをすてて從したがふ。 21 更󠄃さらに進󠄃すゝみゆきて、又󠄂またふたりの兄弟きゃうだい、ゼベダイの子こヤコブとその兄弟きゃうだいヨハネとが、父󠄃ちちゼベダイとともに舟ふねにありて網󠄄あみを繕つくろひをるを見みて呼よび給たまへば、 22 直たゞちに舟ふねと父󠄃ちちとを置おきて從したがふ。 23 イエス徧あまねくガリラヤを巡󠄃めぐり、會堂くわいだうにて敎をしへをなし、御國みくにの福音󠄃ふくいんを宣のべつたへ、民たみの中うちのもろもろの病やまひ、もろもろの疾患わづらひをいやし給たまふ。
 6㌻ 
24 その噂󠄄うはさあまねくシリヤに廣ひろまり、人々ひとびとすべての惱なやめるもの、即すなはちさまざまの病やまひと苦痛くるしみとに罹かゝれるもの、惡鬼あくきに憑つかれたるもの、癲癎てんかんおよび中風ちゅうぶの者ものなどを連󠄃つれ來きたりたれば、イエス之これを醫いやしたまふ。 25 ガリラヤ、デカポリス、エルサレム、ユダヤ及およびヨルダンの彼方かなたより大おほいなる群衆ぐんじゅうきたり從したがへり。

第5章

1 イエス群衆ぐんじゅうを見みて、山やまにのぼり、座ざし給たまへば、弟子でしたち御許みもとにきたる。 2 イエス口くちをひらき、敎をしへて言いひたまふ、 3 『幸福さいはひなるかな、心こゝろの貧󠄃まづしき者もの。天國てんこくはその人ひとのものなり。 4 幸福さいはひなるかな、悲かなしむ者もの。その人ひとは慰なぐさめられん。 5 幸福さいはひなるかな、柔和にうわなる者もの。その人ひとは地ちを嗣つがん。 6 幸福さいはひなるかな、義ぎに飢󠄄うゑ渇かわく者もの。その人ひとは飽󠄄あくことを得えん。 7 幸福さいはひなるかな、憐憫あはれみある者もの。その人ひとは憐憫あはれみを得えん。 8 幸福さいはひなるかな、心こゝろの淸きよき者もの。その人ひとは神かみを見みん。 9 幸福さいはひなるかな、平󠄃和へいわならしむる者もの。その人ひとは神かみの子こと稱󠄄となへられん。 10 幸福さいはひなるかな、義ぎのために責せめられたる者もの。天國てんこくはその人ひとのものなり。 11 我わがために、人ひとなんぢらを罵のゝしり、また責せめ、詐いつはりて各樣さまざまの惡あしきことを言いふときは、汝なんぢら幸福さいはひなり。〘5㌻〙 12 喜よろこびよろこべ、天てんにて汝なんぢらの報むくいは大おほいなり。汝なんぢ等らより前󠄃さきにありし預言者よげんしゃたちをも、斯かく責せめたりき。

13 汝なんぢらは地ちの鹽しほなり、鹽しほもし效力かうりょくを失うしなはば、何なにをもてか之これに鹽しほすべき。後のちは用ようなし、外そとにすてられて人ひとに蹈ふまるるのみ。 14 汝なんぢらは世よの光ひかりなり。山やまの上うへにある町まちは隱かくるることなし。 15 また人ひとは燈火ともしびをともして升ますの下したにおかず、燈臺とうだいの上うへにおく。斯かくて燈火ともしびは家いへにある凡すべての物ものを照てらすなり。 16 斯かくのごとく汝なんぢらの光ひかりを人ひとの前󠄃まへにかがやかせ。これ人ひとの汝なんぢらが善よき行爲おこなひを見みて、天てんにいます汝なんぢらの父󠄃ちちを崇あがめん爲ためなり。
 7㌻ 

17 われ律法おきてまた預言者よげんしゃを毀こぼつために來きたれりと思おもふな。毀こぼたんとて來きたらず、反かへつて成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。 18 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、天てん地ちの過󠄃すぎ往󠄃ゆかぬうちに、律法おきての一點いってん、一畫いっかくも廢すたることなく、悉ことごとく全󠄃まったうせらるべし。 19 この故ゆゑにもし此これ等らのいと小ちひさき誡命いましめの一ひとつをやぶり、且かつその如ごとく人ひとに敎をしふる者ものは、天國てんこくにて最いと小ちひさき者ものと稱󠄄となへられ、之これを行おこなひ、かつ人ひとに敎をしふる者ものは、天國てんこくにて大おほいなる者ものと稱󠄄となへられん。 20 我われなんぢらに吿つぐ、汝なんぢらの義ぎ、學者がくしゃ・パリサイ人びとに勝󠄃まさらずば、天國てんこくに入いること能あたはず。

21 古いにしへの人ひとに「殺ころすなかれ、殺ころす者ものは審判󠄄さばきにあふべし」と云いへることあるを汝なんぢ等らきけり。 22 然されど我われは汝なんぢらに吿つぐ、すべて兄弟きゃうだいを怒いかる者ものは、審判󠄄さばきにあふべし。また兄弟きゃうだいに對むかひて、愚おろか者ものよといふ者ものは、衆議しゅうぎにあふべし。また痴者しれものよといふ者ものは、ゲヘナの火ひにあふべし。 23 この故ゆゑに汝なんぢもし供物そなへものを祭壇さいだんにささぐる時とき、そこにて兄弟きゃうだいに怨うらまるる事ことあるを思おもひ出いださば、 24 供物そなへものを祭壇さいだんのまへに遺󠄃のこしおき、先まづ往󠄃ゆきて、その兄弟きゃうだいと和睦わぼくし、然しかるのち來きたりて、供物そなへものをささげよ。 25 なんぢを訴うったふる者ものとともに途󠄃みちに在あるうちに、早はやく和解わかいせよ。恐おそらくは、訴うったふる者ものなんぢを審判󠄄さばき人びとにわたし、審判󠄄さばき人びとは下役したやくにわたし、遂󠄅つひになんぢは獄ひとやに入いれられん。 26 誠󠄃まことに、汝なんぢに吿つぐ、一いち厘りんも殘のこりなく償つぐのはずば、其處そこをいづること能あたはじ。 27 「姦淫かんいんするなかれ」と云いへることあるを汝なんぢ等らきけり。 28 されど我われは汝なんぢらに吿つぐ、すべて色情󠄃しきじゃうを懷いだきて女をんなを見みるものは、旣󠄁すでに心こゝろのうち姦淫かんいんしたるなり。 29 もし右みぎの目めなんぢを躓つまづかせば、抉くじり出いだして棄すてよ、五體ごたいの一ひとつ亡ほろびて、全󠄃身ぜんしんゲヘナに投なげ入いれられぬは益えきなり。
 8㌻ 
30 もし右みぎの手てなんぢを躓つまづかせば、切きりて棄すてよ、五體ごたいの一ひとつ亡ほろびて、全󠄃身ぜんしんゲヘナに往󠄃ゆかぬは益えきなり。〘6㌻〙 31 また「妻つまをいだす者ものは離緣狀りえんじゃうを與あたふべし」と云いへることあり。 32 されど我われは汝なんぢらに吿つぐ、淫行いんかうの故ゆゑならで其その妻つまをいだす者ものは、これに姦淫かんいんを行おこなはしむるなり。また出いだされたる女をんなを娶めとるものは、姦淫かんいんを行おこなふなり。

33 また古いにしへの人ひとに「いつはり誓ちかふなかれ、なんぢの誓ちかひは主しゅに果はたすべし」と云いへる事ことあるを汝なんぢら聞きけり。 34 されど我われは汝なんぢらに吿つぐ、一切いっさいちかふな、天てんを指さして誓ちかふな、神かみの御座みくらなればなり。 35 地ちを指さして誓ちかふな、神かみの足臺あしだいなればなり。エルサレムを指さして誓ちかふな、大君おほきみの都みやこなればなり。 36 己おのが頭かしらを指さして誓ちかふな、なんぢ頭髮かみのけ一筋ひとすじだに白しろくし、また黑くろくし能あたはねばなり。 37 ただ然しかり然しかり、否いな否いなといへ、之これに過󠄃すぐるは惡あくより出いづるなり。

38 「目めには目めを、齒はには齒はを」と云いへることあるを汝なんぢら聞きけり。 39 されど我われは汝なんぢらに吿つぐ、惡あしき者ものに抵抗てむかふな。人ひともし汝なんぢの右みぎの頬ほほをうたば、左ひだりをも向むけよ。 40 なんぢを訟󠄃うったへて下衣したぎを取とらんとする者ものには、上衣うはぎをも取とらせよ。 41 人ひともし汝なんぢに一里いちりゆくことを强しひなば、共ともに二里にりゆけ。 42 なんぢに請󠄃こふ者ものにあたへ、借からんとする者ものを拒󠄃こばむな。

43 「なんぢの隣となりを愛あいし、なんぢの仇あたを憎にくむべし」と云いへることあるを汝なんぢ等らきけり。 44 されど我われは汝なんぢらに吿つぐ、汝なんぢらの仇あたを愛あいし、汝なんぢらを責せむる者もののために祈いのれ。 45 これ天てんにいます汝なんぢらの父󠄃ちちの子ことならん爲ためなり。天てんの父󠄃ちちは、その日ひを惡あしき者もののうへにも、善よき者もののうへにも昇のぼらせ、雨あめを正たゞしき者ものにも、正たゞしからぬ者ものにも降󠄄ふらせ給たまふなり。
 9㌻ 
46 なんぢら己おのれを愛あいする者ものを愛あいすとも何なにの報むくいをか得うべき、取税人しゅぜいにんも然しかするにあらずや。 47 兄弟きゃうだいにのみ挨拶あいさつすとも何なにの勝󠄃まさることかある、異邦󠄆人いはうじんも然しかするにあらずや。 48 然さらば汝なんぢらの天てんの父󠄃ちちの全󠄃まったきが如ごとく、汝なんぢらも全󠄃まったかれ。

第6章

1 汝なんぢら見みられんために己おのが義ぎを人ひとの前󠄃まへにて行おこなはぬやうに心こゝろせよ。然しからずば、天てんにいます汝なんぢらの父󠄃ちちより報むくいを得えじ。

2 さらば施濟ほどこしをなすとき、僞善者ぎぜんしゃが人ひとに崇あがめられんとて會堂くわいだうや街ちまたにて爲なすごとく、己おのが前󠄃まへにラッパを鳴ならすな。誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、彼かれらは旣󠄁すでにその報むくいを得えたり。 3 汝なんぢは施濟ほどこしをなすとき、右みぎの手てのなすことを左ひだりの手てに知しらすな。 4 是これはその施濟ほどこしの隱かくれん爲ためなり。然さらば隱かくれたるに見みたまふ汝なんぢの父󠄃ちちは報むくい給たまはん。

5 なんぢら祈いのるとき、僞善者ぎぜんしゃの如ごとくあらざれ。彼かれらは人ひとに顯あらはさんとて、會堂くわいだうや大路おほじの角かどに立たちて祈いのることを好このむ。誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、かれらは旣󠄁すでにその報むくいを得えたり。〘7㌻〙 6 なんぢは祈いのるとき、己おのが部屋へやにいり、戶とを閉とぢて、隱かくれたるに在います汝なんぢの父󠄃ちちに祈いのれ。さらば隱かくれたるに見み給たまふなんぢの父󠄃ちちは報むくい給たまはん。 7 また祈いのるとき、異邦󠄆人いはうじんの如ごとく徒いたづらに言ことばを反復くりかへすな。彼かれらは言ことば多おほきによりて聽きかれんと思おもふなり。 8 さらば彼かれらに效ならふな、汝なんぢらの父󠄃ちちは求もとめぬ前󠄃さきに、なんぢらの必要󠄃ひつえうなる物ものを知しりたまふ。 9 この故ゆゑに汝なんぢらは斯かく祈いのれ。「天てんにいます我われらの父󠄃ちちよ、願ねがはくは、御名みなの[*]崇あがめられん事ことを。[*或は「聖󠄃とせられん事を」と譯す。] 10 御國みくにの來きたらんことを。御意みこゝろの天てんのごとく、地ちにも行おこなはれん事ことを。 11 我われらの日用にちようの糧かてを今日けふもあたへ給たまへ。
 10㌻ 
12 我われらに負󠄅債おひめある者ものを我われらの免ゆるしたる如ごとく、我われらの負󠄅債おひめをも免ゆるし給たまへ。 13 我われらを嘗試こころみに遇󠄃あはせず、[*]惡あくより救すくひ出いだしたまへ」[*或は「惡しき者」と譯す。異本一三の末に「國と威󠄂力と榮光とは、とこしへに汝のものなればなり、アァメン」と云ふ句あり。] 14 汝なんぢ等らもし人ひとの過󠄃失あやまちを免ゆるさば、汝なんぢらの天てんの父󠄃ちちも汝なんぢらを免ゆるし給たまはん。 15 もし人ひとを免ゆるさずば、汝なんぢらの父󠄃ちちも汝なんぢらの過󠄃失あやまちを免ゆるし給たまはじ。

16 なんぢら斷食󠄃だんじきするとき、僞善者ぎぜんしゃのごとく、悲かなしき面容おももちをすな。彼かれらは斷食󠄃だんじきすることを人ひとに顯あらはさんとて、その顏かほ色いろを害󠄅そこなふなり。誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、彼かれらは旣󠄁すでにその報むくいを得えたり。 17 なんぢは斷食󠄃だんじきするとき、頭かしらに油あぶらをぬり、顏かほをあらへ。 18 これ斷食󠄃だんじきすることの人ひとに顯あらはれずして、隱かくれたるに在います汝なんぢの父󠄃ちちにあらはれん爲ためなり。さらば隱かくれたるに見みたまふ汝なんぢの父󠄃ちちは報むくい給たまはん。

19 なんぢら己おのがために財寳たからを地ちに積つむな、ここは蟲むしと錆さびとが損そこなひ、盜人ぬすびとうがちて盜ぬすむなり。 20 なんぢら己おのがために財寳たからを天てんに積つめ、かしこは蟲むしと錆さびとが損そこなはず、盜人ぬすびとうがちて盜ぬすまぬなり。 21 なんぢの財寳たからのある所󠄃ところには、なんぢの心こゝろもあるべし。 22 身みの燈火ともしびは目めなり。この故ゆゑに汝なんぢの目めただしくば、全󠄃身ぜんしんあかるからん。 23 然されど、なんぢの目めあしくば、全󠄃身ぜんしんくらからん。もし汝なんぢの內うちの光ひかり、闇やみならば、その闇やみいかばかりぞや。 24 人ひとは二人ふたりの主しゅに兼󠄄かね事つかふること能あたはず、或あるひは、これを憎にくみ、かれを愛あいし、或あるひは、これに親したしみ、かれを輕かろしむべければなり。汝なんぢら神かみと富とみとに兼󠄄かね事つかふること能あたはず。 25 この故ゆゑに我われなんぢらに吿つぐ、何なにを食󠄃くらひ、何なにを飮のまんと生命いのちのことを思おもひ煩わづらひ、何なにを著きんと體からだのことを思おもひ煩わづらふな。生命いのちは糧かてにまさり、體からだは衣ころもに勝󠄃まさるならずや。 26 空󠄃そらの鳥とりを見みよ、播まかず、刈からず、倉くらに收をさめず、然しかるに汝なんぢらの天てんの父󠄃ちちは、これを養󠄄やしなひたまふ。汝なんぢらは之これよりも遙はるかに優すぐるる者ものならずや。 27 汝なんぢらの中うちたれか思おもひ煩わづらひて[*]身みの長たけ一尺いっしゃくを加くはへ得えんや。[*或は「その生命を寸陰も延󠄅べ得んや」と譯す。]
 11㌻ 
28 又󠄂またなにゆゑ衣ころものことを思おもひ煩わづらふや。[*]野のの百合ゆりは如何いかにして育そだつかを思おもへ、勞らうせず、紡つむがざるなり。[*或は「野の花」と譯す。]〘8㌻〙 29 然されど我われなんぢらに吿つぐ、榮華えいぐわを極きはめたるソロモンだに、その服󠄃裝よそほひこの花はなの一ひとつにも及しかざりき。 30 今日けふありて明日あす、爐ろに投なげ入いれらるる野のの草くさをも、神かみはかく裝よそほひ給たまへば、まして汝なんぢらをや、ああ信仰しんかううすき者ものよ。 31 さらば何なにを食󠄃くらひ、何なにを飮のみ、何なにを著きんとて思おもひ煩わづらふな。 32 是これみな異邦󠄆人いはうじんの切せつに求もとむる所󠄃ところなり。汝なんぢらの天てんの父󠄃ちちは凡すべてこれらの物ものの汝なんぢらに必要󠄃ひつえうなるを知しり給たまふなり。 33 まづ神かみの國くにと神かみの義ぎとを求もとめよ、然さらば凡すべてこれらの物ものは汝なんぢらに加くはへらるべし。 34 この故ゆゑに明日あすのことを思おもひ煩わづらふな、明日あすは明日あすみづから思おもひ煩わづらはん。一日いちにちの苦勞くらうは一日いちにちにて足たれり。

第7章

1 なんぢら人ひとを審さばくな、審さばかれざらん爲ためなり。 2 己おのがさばく審判󠄄さばきにて己おのれもさばかれ、己おのがはかる量はかりにて己おのれも量はからるべし。 3 何なにゆゑ兄弟きゃうだいの目めにある[*]塵ちりを見みて、おのが目めにある梁木うつばりを認󠄃みとめぬか。[*或は「木屑」と譯す。四、五節なるも同じ。] 4 視みよ、おのが目めに梁木うつばりのあるに、いかで兄弟きゃうだいにむかひて、汝なんぢの目めより塵ちりをとり除のぞかせよと言いひ得えんや。 5 僞善者ぎぜんしゃよ、まづ己おのが目めより梁木うつばりをとり除のぞけ、さらば明あきらかに見みえて兄弟きゃうだいの目めより塵ちりを取とりのぞき得えん。

6 聖󠄃せいなる物ものを犬いぬに與あたふな。また眞󠄃珠しんじゅを豚ぶたの前󠄃まへに投なぐな。恐おそらくは足あしにて蹈ふみつけ、向むき返󠄄かへりて汝なんぢらを噛かみやぶらん。

7 求もとめよ、然さらば與あたへられん。尋󠄃たづねよ、さらば見出みいださん。門もんを叩たゝけ、さらば開ひらかれん。 8 すべて求もとむる者ものは得え、たづぬる者ものは見みいだし、門もんをたたく者ものは開ひらかるるなり。 9 汝なんぢ等らのうち、誰たれかその子こパンを求もとめんに石いしを與あたへ、
 12㌻ 
10 魚うをを求もとめんに蛇へびを與あたへんや。 11 然さらば、汝なんぢら惡あしき者ものながら、善よき賜物たまものをその子こらに與あたふるを知しる。まして天てんにいます汝なんぢらの父󠄃ちちは、求もとむる者ものに善よき物ものを賜たまはざらんや。 12 然さらば凡すべて人ひとに爲せられんと思おもふことは、人ひとにも亦またその如ごとくせよ。これは律法おきてなり、預言者よげんしゃなり。

13 狹せまき門もんより入いれ、滅ほろびにいたる門もんは大おほきく、その路みちは廣ひろく、之これより入いる者ものおほし。 14 生命いのちにいたる門もんは狹せまく、その路みちは細ほそく、之これを見み出いだす者ものすくなし。〘9㌻〙

15 僞にせ預言者よげんしゃに心こゝろせよ、羊ひつじの扮裝よそほひして來きたれども、內うちは奪うばひ掠かすむる豺狼おほかみなり。 16 その果みによりて彼かれらを知しるべし。茨いばらより葡萄ぶだうを、薊あざみより無花果いちぢくをとる者ものあらんや。 17 斯かく、すべて善よき樹きは善よき果みをむすび、惡あしき樹きは惡あしき果みをむすぶ。 18 善よき樹きは惡あしき果みを結むすぶこと能あたはず、惡あしき樹きはよき果みを結むすぶこと能あたはず。 19 すべて善よき果みを結むすばぬ樹きは、伐きられて火ひに投なげ入いれらる。 20 然さらば、その果みによりて彼かれらを知しるべし。 21 我われに對むかひて主しゅよ主しゅよといふ者もの、ことごとくは天國てんこくに入いらず、ただ天てんにいます我わが父󠄃ちちの御意みこゝろをおこなふ者もののみ、之これに入いるべし。 22 その日ひおほくの者もの、われに對むかひて「主しゅよ主しゅよ、我われらは汝なんぢの名なによりて預言よげんし、汝なんぢの名なによりて惡鬼あくきを逐󠄃おひいだし、汝なんぢの名なによりて多おほくの能力ちからある業わざを爲なししにあらずや」と言いはん。 23 その時ときわれ明白あらはに吿つげん「われ斷たえて汝なんぢらを知しらず、不法ふはふをなす者ものよ、我われを離はなれされ」と。

24 さらば凡すべて我わがこれらの言ことばをききて行おこなふ者ものを、磐いはの上うへに家いへをたてたる慧󠄄さとき人ひとに擬なずらへん。 25 雨あめふり流ながれ漲みなぎり、風かぜふきてその家いへをうてど倒たふれず、これ磐いはの上うへに建󠄄たてられたる故ゆゑなり。 26 すべて我わがこれらの言ことばをききて行おこなはぬ者ものを、沙すなの上うへに家いへを建󠄄たてたる愚おろかなる人ひとに擬なずらへん。
 13㌻ 
27 雨あめふり流ながれ漲みなぎり、風かぜふきて其その家いへをうてば、倒たふれてその顚倒たふれはなはだし』

28 イエスこれらの言ことばを語かたりをへ給たまへるとき、群衆ぐんじゅうその敎をしへに驚をどろきたり。 29 それは學者がくしゃらの如ごとくならず、權威󠄂けんゐある者もののごとく敎をしへ給たまへる故ゆゑなり。

第8章

1 イエス山やまを下くだり給たまひしとき、大おほいなる群衆ぐんじゅうこれに從したがふ。 2 視みよ、一人ひとりの癩病人らいびゃうにんみもとに來きたり、拜はいして言いふ『主しゅよ、御意みこゝろならば、我われを潔󠄄きよくなし給たまふを得えん』 3 イエス手てをのべ、彼かれにつけて『わが意こゝろなり、潔󠄄きよくなれ』と言いひ給たまへば、癩病らいびゃうただちに潔󠄄きよまれり。 4 イエス言いひ給たまふ『つつしみて誰たれにも語かたるな、ただ往󠄃ゆきて己おのれを祭司さいしに見みせ、モーセが命めいじたる供物そなへものを獻さゝげて、人々ひとびとに證あかしせよ』

5 イエス、カペナウムに入いり給たまひしとき、百卒長ひゃくそつちゃうきたり、 6 請󠄃こひていふ『主しゅよ、わが僕しもべ、中風ちゅうぶを病やみ、家いへに臥ふしゐて甚いたく苦くるしめり』 7 イエス言いひ給たまふ『われ往󠄃ゆきて醫いやさん』 8 百卒長ひゃくそつちゃうこたへて言いふ『主しゅよ、我われは汝なんぢをわが屋根やねの下したに入いれ奉まつるに足たらぬ者ものなり。ただ御言みことばのみを賜たまへ、さらば我わが僕しもべはいえん。 9 我われみづから權威󠄂けんゐの下したにある者ものなるに、我わが下したにまた兵卒へいそつありて、此これに「ゆけ」と言いへば往󠄃ゆき、彼かれに「きたれ」と言いへば來きたり、わが僕しもべに「これを爲なせ」といへば爲なすなり』〘10㌻〙 10 イエス聞ききて怪あやしみ、從したがへる人々ひとびとに言いひ給たまふ『まことに汝なんぢらに吿つぐ、斯かゝる篤あつき信仰しんかうはイスラエルの中うちの一人ひとりにだに見みしことなし。 11 又󠄂またなんぢらに吿つぐ、多おほくの人ひと、東ひがしより西にしより來きたり、アブラハム、イサク、ヤコブとともに天國てんこくの宴えんにつき、 12 御國みくにの子こらは外そとの暗󠄃くらきに逐󠄃おひ出いだされ、そこにて哀哭なげき・切齒はがみすることあらん』
 14㌻ 
13 イエス百卒長ひゃくそつちゃうに『ゆけ、汝なんぢの信しんずるごとく汝なんぢになれ』と言いひ給たまへば、このとき僕しもべいえたり。

14 イエス、ペテロの家いへに入いり、その外姑しうとめの熱ねつを病やみて臥ふしをるを見み、 15 その手てに觸さはり給たまへば、熱ねつ去さり、女をんなおきてイエスに事つかふ。 16 夕ゆふべになりて、人々ひとびと、惡鬼あくきに憑つかれたる者ものをおほく御許みもとにつれ來きたりたれば、イエス言ことばにて靈れいを逐󠄃おひいだし、病やめる者ものをことごとく醫いやし給たまへり。 17 これは預言者よげんしゃイザヤによりて『かれは自みづから我われらの疾患わずらひをうけ、我われらの病やまひを負󠄅おふ』と云いはれし言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。

18 さてイエス群衆ぐんじゅうの己おのれを環󠄃めぐれるを見みて、ともに彼方かなたの岸きしに往󠄃ゆかんことを弟子でしたちに命めいじ給たまふ。 19 一人ひとりの學者がくしゃきたりて言いふ『師しよ何處いづこにゆき給たまふとも、我われは從したがはん』 20 イエス言いひたまふ『狐きつねは穴󠄄あなあり、空󠄃そらの鳥とりは塒ねぐらあり、然されど人ひとの子こは枕まくらする所󠄃ところなし』 21 また弟子でしの一人ひとりいふ『主しゅよ、先まづ往󠄃ゆきて我わが父󠄃ちちを葬はうむることを許ゆるしたまへ』 22 イエス言いひたまふ『我われに從したがへ、死しにたる者ものにその死しにたる者ものを葬はうむらせよ』

23 かくて舟ふねに乘のり給たまへば、弟子でしたちも從したがふ。 24 視みよ、海うみに大おほいなる暴風あらしおこりて、舟ふね、波なみに蔽おほはるるばかりなるに、イエスは眠ねむりゐ給たまふ。 25 弟子でしたち御許みもとにゆき、起󠄃おこして言いふ『主しゅよ、救すくひたまへ、我われらは亡ほろぶ』 26 彼かれらに言いひ給たまふ『なにゆゑ臆おくするか、信仰しんかううすき者ものよ』乃すなはち起󠄃おきて、風かぜと海うみとを禁いましめ給たまへば、大おほいなる凪なぎとなりぬ。 27 人々ひとびとあやしみて言いふ『こは如何いかなる人ひとぞ、風かぜも海うみも從したがふとは』

28 イエス彼方かなたにわたり、ガダラ人びとの地ちにゆき給たまひしとき、惡鬼あくきに憑つかれたる二人ふたりのもの、墓はかより出いできたりて之これに遇󠄃あふ。その猛たけきこと甚はなはだしく、其處そこの途󠄃みちを人ひとの過󠄃すぎ得えぬほどなり。 29 視みよ、かれら叫さけびて言いふ『神かみの子こよ、われら汝なんぢと何なにの關係かゝはりあらん、未いまだ時ときいたらぬに、我われらを責せめんとて此處ここにきたり給たまふか』
 15㌻ 
30 遙はるかにへだたりて多おほくの豚ぶたの一ひと群むれ、食󠄃しょくしゐたりしが、 31 惡鬼あくきども請󠄃こひて言いふ『もし我われらを逐󠄃おひ出いださんとならば、豚ぶたの群むれに遣󠄃つかはしたまへ』〘11㌻〙 32 彼かれらに言いひ給たまふ『ゆけ』惡鬼あくきいでて豚ぶたに入いりたれば、視みよ、その群むれみな崖がけより海うみに駈かけ下くだりて、水みづに死しにたり。 33 飼かふ者ものども逃󠄄にげて町まちにゆき、すべての事ことと惡鬼あくきに憑つかれたりし者ものの事こととを吿つげたれば、 34 視みよ、町まち人ひとこぞりてイエスに逢あはんとて出いできたり、彼かれを見みて、この地方ちはうより去さり給たまはんことを請󠄃こへり。

第9章

1 イエス舟ふねにのり、渡わたりて己おのが町まちにきたり給たまふ。 2 視みよ、中風ちゅうぶにて床とこに臥ふしをる者ものを、人々ひとびとみもとに連󠄃つれ來きたれり。イエス彼かれらの信仰しんかうを見みて、中風ちゅうぶの者ものに言いひたまふ『子こよ、心こゝろ安やすかれ、汝なんぢの罪つみゆるされたり』 3 視みよ、或ある學者がくしゃら心こゝろの中うちにいふ『この人ひとは神かみを瀆けがすなり』 4 イエスその思おもひを知しりて言いひ給たまふ『何なにゆゑ心こゝろに惡あしき事ことをおもふか。 5 汝なんぢの罪つみゆるされたりと言いふと、起󠄃おきて步あゆめと言いふと、孰いづれか易やすき。 6 人ひとの子こ、地ちにて罪つみを赦ゆるす權威󠄂けんゐあることを汝なんぢらに知しらせん爲ために』――ここに中風ちゅうぶの者ものに言いひ給たまふ――『起󠄃おきよ、床とこをとりて汝なんぢの家いへにかへれ』 7 彼かれおきて、その家いへにかへる。 8 群衆ぐんじゅうこれを見みておそれ、斯かゝる能力ちからを人ひとにあたへ給たまへる神かみを崇あがめたり。

9 イエス此處ここより進󠄃すゝみて、マタイといふ人ひとの收税所󠄃しうぜいしょに坐ざしをるを見みて『我われに從したがへ』と言いひ給たまへば、立たちて從したがへり。

10 家いへにて食󠄃事しょくじの席せきにつき居給ゐたまふとき、視みよ、多おほくの取税人しゅぜいにん・罪人つみびとら來きたりて、イエス及および弟子でしたちと共ともに列つらなる。
 16㌻ 
11 パリサイ人びとこれを見みて弟子でしたちに言いふ『なに故ゆゑなんぢらの師しは、取税人しゅぜいにん・罪人つみびとらと共ともに食󠄃しょくするか』 12 之これを聞ききて言いひたまふ『健󠄄すこやかなる者ものは醫者いしゃを要󠄃えうせず、ただ病やめる者ものこれを要󠄃えうす。 13 なんぢら往󠄃ゆきて學まなべ「われ憐憫あはれみを好このみて、犧牲いけにへを好このまず」とは如何いかなる意こゝろぞ。我われは正たゞしき者ものを招まねかんとにあらで、罪人つみびとを招まねかんとて來きたれり』

14 爰こゝにヨハネの弟子でしたち御許みもとにきたりて言いふ『われらとパリサイ人びとは[*]斷食󠄃だんじきするに、何なに故ゆゑなんぢの弟子でしたちは斷食󠄃だんじきせぬか』[*異本「しばしば斷食󠄃するに」とあり。] 15 イエス言いひたまふ『新郎はなむこの友ともだち、新郎はなむこと偕ともにをる間あひだは、悲かなしむことを得えんや。されど新郎はなむこをとらるる日ひきたらん、その時ときには斷食󠄃だんじきせん。 16 誰たれも新あたらしき布ぬのの裂きれを舊ふるき衣ころもにつぐことは爲せじ、補おぎなひたる裂きれは、その衣ころもをやぶりて、破綻ほころびさらに甚はなはだしかるべし。 17 また新あたらしき葡萄酒ぶだうしゅをふるき革嚢かはぶくろに入いるることは爲せじ。もし然しかせば嚢ふくろはりさけ、酒さけほどばしり出いでて、嚢ふくろもまた廢すたらん。新あたらしき葡萄酒ぶだうしゅは新あたらしき革嚢かはぶくろにいれ、斯かくて兩ふたつながら保たもつなり』〘12㌻〙

18 イエス此これ等らのことを語かたりゐ給たまふとき、視みよ、一人ひとりの司つかさきたり、拜はいして言いふ『わが娘むすめいま死しにたり。然されど來きたりて御手みてを之これにおき給たまはば活いきん』 19 イエス起󠄃たちて彼かれに伴󠄃ともなひ給たまふに、弟子でしたちも從したがふ。 20 視みよ、十じふ二年にねん血漏ちらうを患わづらひゐたる女をんな、イエスの後うしろにきたりて、御衣みころもの總󠄂ふさにさはる。 21 それは御衣みころもにだに觸さはらば救すくはれんと心こゝろの中うちにいへるなり。 22 イエスふりかへり、女をんなを見みて言いひたまふ『娘むすめよ、心こゝろ安やすかれ、汝なんぢの信仰しんかうなんぢを救すくへり』女をんなこの時ときより救すくはれたり。 23 斯かくてイエス司つかさの家いへにいたり、笛ふえふく者ものと騷さわぐ群衆ぐんじゅうとを見みて言いひたまふ、 24 『退󠄃しりぞけ、少女せうじょは死しにたるにあらず、寐いねたるなり』人々ひとびとイエスを嘲󠄂笑あざわらふ。 25 群衆ぐんじゅうの出いだされし後のち、いりてその手てをとり給たまへば、少女せうじょおきたり。
 17㌻ 
26 この聲聞きこえあまねく其その地ちに弘ひろまりぬ。

27 イエス此處ここより進󠄃すゝみたまふ時とき、ふたりの盲人めしひさけびて『ダビデの子こよ、我われらを憫あはれみたまへ』と言いひつつ從したがふ。 28 イエス家いへにいたり給たまひしに、盲人めしひども御許みもとに來きたりたれば、之これに言いひたまふ『我われこの事ことをなし得うと信しんずるか』彼かれ等らいふ『主しゅよ、然しかり』 29 爰こゝにイエスかれらの目めに觸さはりて言いひたまふ『なんぢらの信仰しんかうのごとく汝なんぢらに成󠄃なれ』 30 乃すなはち彼かれらの目めあきたり。イエス嚴きびしく戒いましめて言いひたまふ『愼つゝしみて誰たれにも知しらすな』 31 されど彼かれら出いでて、徧あまねくその地ちにイエスの事ことをいひ弘ひろめたり。

32 盲人めしひどもの出いづるとき、視みよ、人々ひとびと、惡鬼あくきに憑つかれたる啞者おふしを御許みもとにつれきたる。 33 惡鬼あくきおひ出いだされて啞者おふしものいひたれば、群衆ぐんじゅうあやしみて言いふ『かかる事ことは未いまだイスラエルの中うちに顯あらはれざりき』 34 然しかるにパリサイ人びといふ『かれは惡鬼あくきの首かしらによりて惡鬼あくきを逐󠄃おひ出いだすなり』

35 イエス徧あまねく町まちと村むらとを巡󠄃めぐり、その會堂くわいだうにて敎をしへ、御國みくにの福音󠄃ふくいんを宣のべつたへ、諸般もろもろの病やまひ、もろもろの疾患わずらひをいやし給たまふ。 36 また群衆ぐんじゅうを見みて、その牧かふ者ものなき羊ひつじのごとく惱なやみ、且かつた[*]ふるるを甚いたく憫あはれみ、[*或は「散る」と譯す。] 37 遂󠄅つひに弟子でしたちに言いひたまふ『收穫かりいれはおほく勞動人はたらきびとはすくなし。 38 この故ゆゑに收穫かりいれの主しゅに勞動人はたらきびとをその收穫場かりいればに遣󠄃つかはし給たまはんことを求もとめよ』

第10章

1 斯かくてイエスその十二じふに弟子でしを召めし、穢けがれし靈れいを制せいする權威󠄂けんゐをあたへて、之これを逐󠄃おひ出いだし、もろもろの病やまひ、もろもろの疾患わずらひを醫いやすことを得えしめ給たまふ。〘13㌻〙
 18㌻ 

2 十二じふに使󠄃徒しとの名なは左さのごとし。先まづペテロといふシモン及およびその兄弟きゃうだいアンデレ、ゼベダイの子こヤコブ及およびその兄弟きゃうだいヨハネ、 3 ピリポ及およびバルトロマイ、トマス及および取税人しゅぜいにんマタイ、アルパヨの子こヤコブ及およびタダイ、 4 熱心ねっしん黨たうのシモン及およびイスカリオテのユダ、このユダはイエスを賣うりし者ものなり。 5 イエスこの十二じふに人にんを遣󠄃つかはさんとて、命めいじて言いひたまふ。   『異邦󠄆人いはうじんの途󠄃みちにゆくな、又󠄂またサマリヤ人びとの町まちに入いるな。

6 寧むしろイスラエルの家いへの失うせたる羊ひつじにゆけ。 7 往󠄃ゆきて宣のべつたへ「天國てんこくは近󠄃ちかづけり」と言いへ。 8 病やめる者ものをいやし、死しにたる者ものを甦よみがへらせ、癩病人らいびゃうにんをきよめ、惡鬼あくきを逐󠄃おひいだせ。價あたひなしに受うけたれば價あたひなしに與あたへよ。 9 帶おびのなかに金きん・銀ぎんまたは錢ぜにをもつな。 10 旅󠄃たびの嚢ふくろも、二に枚まいの下衣したぎも、鞋くつも、杖つゑももつな。勞動人はたらきびとの、その食󠄃物しょくもつを得うるは相應ふさはしきなり。 11 何いづれの町まち、いづれの村むらに入いるとも、その中うちにて相應ふさはしき者ものを尋󠄃たづねいだして、立たち去さるまでは其處そこに留とゞまれ。 12 人ひとの家いへに入いらば平󠄃安へいあんを祈いのれ。 13 その家いへもし之これに相應ふさはしくば、汝なんぢらの祈いのる平󠄃安へいあんは、その上うへに臨のぞまん。もし相應ふさはしからずば、その平󠄃安へいあんは、なんぢらに歸かへらん。 14 人ひともし汝なんぢらを受うけず、汝なんぢらの言ことばを聽きかずば、その家いへ、その町まちを立たち去さるとき、足あしの塵ちりをはらへ。 15 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、審判󠄄さばきの日ひには、その町まちよりもソドム、ゴモラの地ちのかた耐たへ易やすからん。

16 視みよ、我われなんぢらを遣󠄃つかはすは、羊ひつじを豺狼おほかみのなかに入いるるが如ごとし。この故ゆゑに蛇へびのごとく慧󠄄さとく、鴿はとのごとく素直すなほなれ。 17 人々ひとびとに心こゝろせよ、それは汝なんぢらを衆議所󠄃しゅうぎしょに付わたし、會堂くわいだうにて鞭むちうたん。 18 また汝なんぢ等らわが故ゆゑによりて、司つかさたち王わうたちの前󠄃まへに曳ひかれん。これは彼かれらと異邦󠄆人いはうじんとに證あかしをなさん爲ためなり。
 19㌻ 
19 かれら汝なんぢらを付わたさば、如何]いかになにを言いはんと思おもひ煩わづらふな、言いふべき事ことは、その時ときさづけらるべし。 20 これ言いふものは汝なんぢ等らにあらず、其その中うちにありて言いひたまふ汝なんぢらの父󠄃ちちの靈れいなり。 21 兄弟きゃうだいは兄弟きゃうだいを、父󠄃ちちは子こを死しに付わたし、子こどもは親おやに逆󠄃さからひて之これを死しなしめん。 22 又󠄂またなんぢら我わが名なのために凡すべての人ひとに憎にくまれん。されど終󠄃をはりまで耐たへ忍󠄄しのぶものは救すくはるべし。 23 この町まちにて、責せめらるる時ときは、かの町まちに逃󠄄のがれよ。誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、なんぢらイスラエルの町々まちまちを巡󠄃めぐり盡つくさぬうちに人ひとの子こは來きたるべし。

24 弟子でしはその師しにまさらず、僕しもべはその主しゅにまさらず、〘14㌻〙 25 弟子でしはその師しのごとく、僕しもべはその主しゅの如ごとくならば足たれり。もし家主いへあるじをベルゼブルと呼よびたらんには、况ましてその家いへの者ものをや。 26 この故ゆゑに、彼かれらを懼おそるな。蔽おほはれたるものに露あらはれぬはなく、隱かくれたるものに知しられぬは無なければなり。 27 暗󠄃黑くらきにて我わが吿つぐることを光明あかるきにて言いへ。耳みゝをあてて聽きくことを屋やの上うへにて宣のべよ。 28 身みを殺ころして靈魂たましひをころし得えぬ者ものどもを懼おそるな、身みと靈魂たましひとをゲヘナにて滅ほろぼし得うる者ものをおそれよ。 29 二に羽はの雀すゞめは一錢いっせんにて賣うるにあらずや、然しかるに汝なんぢらの父󠄃ちちの許ゆるしなくば、その一いち羽はも地ちに落おつること無なからん。 30 汝なんぢらの頭かしらの髮けまでも皆みなかぞへらる。 31 この故ゆゑにおそるな、汝なんぢらは多おほくの雀すゞめよりも優すぐるるなり。 32 然されば凡おほよそ人ひとの前󠄃まへにて我われを言いひあらはす者ものを、我われもまた天てんにいます我わが父󠄃ちちの前󠄃まへにて言いひ顯あらはさん。 33 されど人ひとの前󠄃まへにて我われを否いなむ者ものを、我われもまた天てんにいます我わが父󠄃ちちの前󠄃まへにて否いなまん。

34 われ地ちに平󠄃和へいわを投とうぜんために來きたれりと思おもふな、平󠄃和へいわにあらず、反かへつて劍つるぎを投とうぜん爲ために來きたれり。 35 それ我わが來きたれるは人ひとをその父󠄃ちちより、娘むすめをその母ははより、嫁よめをその姑嫜しゅうとめより分󠄃わかたん爲ためなり。
 20㌻ 
36 人ひとの仇あたはその家いへの者ものなるべし。 37 我われよりも父󠄃ちちまたは母ははを愛あいする者ものは、我われに相應ふさはしからず。我われよりも息子むすこまたは娘むすめを愛あいする者ものは、我われに相應ふさはしからず。 38 又󠄂またおのが十字架じふじかをとりて我われに從したがはぬ者ものは、我われに相應ふさはしからず。 39 生命いのちを得うる者ものは、これを失うしなひ、我わがために生命いのちを失うしなふ者ものは、これを得うべし。

40 汝なんぢらを受うくる者ものは、我われを受うくるなり。我われをうくる者ものは、我われを遣󠄃つかはし給たまひし者ものを受うくるなり。 41 預言者よげんしゃたる名なの故ゆゑに預言者よげんしゃをうくる者ものは、預言者よげんしゃの報むくいをうけ、義人ぎじんたる名なのゆゑに義人ぎじんをうくる者ものは、義人ぎじんの報むくいを受うくべし。 42 凡おほよそわが弟子でしたる名なの故ゆゑに、この小ちひさき者ものの一人ひとりに冷ひやゝかなる水みづ一杯いっぱいにても與あたふる者ものは、誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、必かならずその報むくいを失うしなはざるべし』

第11章

1 イエス十二じふに弟子でしに命めいじ終󠄃をへてのち、町々まちまちにて敎をしへ、かつ、宣傳のべつたへんとて、此處ここを去さり給たまへり。

2 ヨハネ牢舍らうやにてキリストの御業みわざをきき、弟子でしたちを遣󠄃つかはして、 3 イエスに言いはしむ『來きたるべき者ものは汝なんぢなるか、或あるひは、他ほかに待まつべきか』 4 答こたへて言いひたまふ『ゆきて、汝なんぢらが見み聞きゝする所󠄃ところをヨハネに吿つげよ。 5 盲人めしひは見み、跛者あしなへはあゆみ、癩病人らいびゃうにんは潔󠄄きよめられ、聾󠄃者みゝしひはきき、死人しにんは甦よみがへらせられ、貧󠄃まづしき者ものは福音󠄃ふくいんを聞きかせらる。〘15㌻〙 6 おほよそ我われに躓つまづかぬ者ものは幸福さいはひなり』 7 彼かれらの歸かへりたるをり、ヨハネの事ことを群衆ぐんじゅうに言いひ出いでたまふ『なんぢら何なにを眺ながめんとて野のに出いでし、風かぜにそよぐ葦あしなるか。 8 然さらば何なにを見みんとて出いでし、柔やはらかき衣ころもを著きたる人ひとなるか。視みよ、やはらかき衣ころもを著きたる者ものは王わうの家いへに在あり。
 21㌻ 
9 さらば何なにのために出いでし、預言者よげんしゃを見みんとてか。然しかり、汝なんぢらに吿つぐ、預言者よげんしゃよりも勝󠄃まさる者ものなり。 10 「視みよ、わが使󠄃つかひをなんぢの顏かほの前󠄃まへにつかはす。 彼かれは、なんぢの前󠄃まへに、なんぢの道󠄃みちをそなへん」と錄しるされたるは此この人ひとなり。 11 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、女をんなの產うみたる者もののうち、バプテスマのヨハネより大おほいなる者ものは起󠄃おこらざりき。然されど天國てんこくにて小ちひさき者ものも、彼かれよりは大おほいなり。 12 バプテスマのヨハネの時ときより今いまに至いたるまで、天國てんこくは烈はげしく攻せめらる、烈はげしく攻せむる者ものは、これを奪うばふ。 13 凡すべての預言者よげんしゃと律法おきてとの預言よげんしたるは、ヨハネの時ときまでなり。 14 もし汝なんぢ等らわが言ことばをうけんことを願ねがはば、來きたるべきエリヤは此この人ひとなり、 15 耳みゝある者ものは聽きくべし。 16 われ今いまの代よを何なにに比なずらへん、童子わらべ、市場いちばに坐ざし、友ともを呼よびて、 17 「われら汝なんぢ等らのために笛ふえ吹ふきたれど汝なんぢら踴をどらず、歎なげきたれど汝なんぢら胸むねうたざりき」と言いふに似にたり。 18 それはヨハネ來きたりて、飮食󠄃のみくひせざれば「惡鬼あくきに憑つかれたる者ものなり」といひ、 19 人ひとの子こ、來きたりて飮食󠄃のみくひすれば「視みよ、食󠄃しょくを貪むさぼり、酒さけを好このむ人ひと、また取税人しゅぜいにん・罪人つみびとの友ともなり」と言いふなり。されど智慧󠄄ちゑは己おのが[*]業わざによりて正たゞしとせらる』[*異本「子」とあり。] 20 爰こゝにイエス多おほくの能力ちからある業わざを行おこなひ給たまへる町々まちまちの悔改くいあらためぬによりて、之これを責せめはじめ給たまふ、 21 『禍害󠄅わざはひなる哉かな、コラジンよ、禍害󠄅わざはひなる哉かな、ベツサイダよ、汝なんぢらの中うちにて行おこなひたる能力ちからある業わざをツロとシドンとにて行おこなひしならば、彼かれらは早はやく荒布あらぬのを著き、灰󠄃はひの中なかにて悔改くいあらためしならん。 22 されば汝なんぢらに吿つぐ、審判󠄄さばきの日ひにはツロとシドンとのかた汝なんぢ等らよりも耐たへ易やすからん。 23 カペナウムよ、なんぢは天てんにまで擧あげらるべきか、黃泉よみにまで下くだらん。汝なんぢのうちにて行おこなひたる能力ちからある業わざをソドムにて行おこなひしならば、今日けふまでも、かの町まちは遺󠄃のこりしならん。 24 然されば汝なんぢらに吿つぐ、審判󠄄さばきの日ひにはソドムの地ちのかた汝なんぢよりも耐たへ易やすからん』
 22㌻ 

25 その時ときイエス答こたへて言いひたまふ『天てん地ちの主しゅなる父󠄃ちちよ、われ感謝󠄃かんしゃす、此これ等らのことを智かしこき者もの、慧󠄄さとき者ものにかくして嬰兒みどりごに顯あらはし給たまへり。 26 父󠄃ちちよ、然しかり、斯かくの如ごときは御意みこゝろに適󠄄かなへるなり。 27 凡すべの物ものは我われわが父󠄃ちちより委ゆだねられたり。子こを知しる者ものは父󠄃ちちの外ほかになく、父󠄃ちちをしる者ものは子こまたは子この欲ほっするままに顯あらはすところの者ものの外ほかになし。〘16㌻〙 28 凡すべて勞らうする者もの・重荷おもにを負󠄅おふ者もの、われに來きたれ、われ汝なんぢらを休やすません。 29 我われは柔和にうわにして心こゝろ卑ひくければ、我わが軛くびきを負󠄅おひて我われに學まなべ、さらば靈魂たましひに休息やすみを得えん。 30 わが軛くびきは易やすく、わが荷には輕かろければなり』

第12章

1 その頃ころイエス安息あんそく日にちに麥むぎ畠はたけをとほり給たまひしに、弟子でしたち飢󠄄うゑて穗ほを摘つみ、食󠄃くひ始はじめたるを、 2 パリサイ人びと、見みてイエスに言いふ『視みよ、なんぢの弟子でしは安息あんそく日にちに爲すまじき事ことをなす』 3 彼かれらに言いひ給たまふ『ダビデがその伴󠄃ともなへる人々ひとびととともに飢󠄄うゑしとき、爲なしし事ことを讀よまぬか。 4 即すなはち神かみの家いへに入いりて、祭司さいしのほかは、己おのれもその伴󠄃ともなへる人々ひとびとも食󠄃くらふまじき供そなへのパンを食󠄃くらへり。 5 また安息あんそく日にちに祭司さいしらは宮みやの內うちにて安息あんそく日にちを犯をかせども、罪つみなきことを律法おきてにて讀よまぬか。 6 われ汝なんぢらに吿つぐ、宮みやより大おほいなる者ものここに在あり。 7 「われ憐憫あはれみを好このみて、犧牲いけにへを好このまず」とは如何いかなる意こゝろかを、汝なんぢら知しりたらんには、罪つみなき者ものを罪つみせざりしならん。 8 それ人ひとの子こは安息あんそく日にちの主しゅたるなり』

9 イエス此處ここを去さりて、彼かれらの會堂くわいだうに入いり給たまひしに、 10 視みよ、片手かたてなえたる人ひとあり。人々ひとびとイエスを訴うったへんと思おもひ、問とひていふ『安息あんそく日にちに人ひとを醫いやすことは善よきか』 11 彼かれらに言いひたまふ『汝なんぢ等らのうち一匹󠄃いっぴきの羊ひつじをもてる者ものあらんに、もし安息あんそく日にちに穴󠄄あなに陷おちいらば、之これを取とりあげぬか。
 23㌻ 
12 人ひとは羊ひつじより優すぐるること如何いか許ばかりぞ。さらば安息あんそく日にちに善ぜんをなすは可よし』 13 爰こゝにかの人ひとに言いひ給たまふ『なんぢの手てを伸のべよ』かれ伸のべたれば、他ほかの手てのごとく癒󠄄いゆ。 14 パリサイ人びといでて如何いかにしてかイエスを亡ほろぼさんと議はかる。 15 イエス之これを知しりて此處ここを去さりたまふ。多おほくの人ひと、したがひ來きたりたれば、ことごとく之これを醫いやし、 16 かつ我われを人ひとに知しらすなと戒いましめ給たまへり。 17 これ預言者よげんしゃイザヤによりて云いはれたる言ことばの成󠄃就じゃうじゅせんためなり。曰いはく、 18 『視みよ、わが選󠄄えらびたる我わが僕しもべ、 わが心こゝろの悅よろこぶ我わが愛いつくしむ者もの、 我われわが靈れいを彼かれに與あたへん、 彼かれは異邦󠄆人いはうじんに正義せいぎを吿つげ示しめさん。 19 彼かれは爭あらそはず、叫さけばず、 その聲こゑを大路おほじにて聞きく者ものなからん。 20 正義せいぎをして勝󠄃かち遂󠄅とげしむるまでは、 傷そこなへる葦あしを折をることなく、 煙󠄃けぶれる[*]亞麻󠄃あまを消󠄃けすことなからん。[*或は「燈心」と譯す。]〘17㌻〙 21 異邦󠄆人いはうじんも彼かれの名なに望󠄇のぞみをおかん』

22 ここに惡鬼あくきに憑つかれたる盲目めしひの啞者おふしを御許みもとに連󠄃つれ來きたりたれば、之これを醫いやして啞者おふしの物もの言いひ、見みゆるやうに爲なしたまひぬ。 23 群衆ぐんじゅうみな驚をどろきて言いふ『これはダビデの子こにあらぬか』 24 然しかるにパリサイ人びとききて言いふ『この人ひと、惡鬼あくきの首かしらベルゼブルによらでは惡鬼あくきを逐󠄃おひ出いだすことなし』 25 イエス彼かれらの思おもひを知しりて言いひ給たまふ『すべて分󠄃わかれ爭あらそふ國くにはほろび、分󠄃わかれ爭あらそふ町まちまた家いへはたたず。 26 サタンもしサタンを逐󠄃おひ出いださば、自みづから分󠄃わかれ爭あらそふなり。然さらばその國くにいかで立たつべき。 27 我われもしベルゼブルによりて惡鬼あくきを逐󠄃おひ出いださば、汝なんぢらの子こは誰たれによりて之これを逐󠄃おひ出いだすか。この故ゆゑに彼かれらは汝なんぢらの審判󠄄さばき人ひととなるべし。 28 然されど我われもし神かみの靈れいによりて惡鬼あくきを逐󠄃おひ出いださば、神かみの國くには旣󠄁すでに汝なんぢらに到いたれるなり。 29 人ひとまづ强つよき者ものを縛󠄃しばらずば、いかで强つよき者ものの家いへに入いりて、その家財かざいを奪うばふことを得えん、縛󠄃しばりて後のちその家いへを奪うばふべし。
 24㌻ 
30 我われと偕ともならぬ者ものは我われにそむき、我われとともに集あつめぬ者ものは散ちらすなり。 31 この故ゆゑに汝なんぢらに吿つぐ、人ひとの凡すべての罪つみと瀆けがしとは赦ゆるされん、されど御靈みたまを瀆けがすことは赦ゆるされじ。 32 誰たれにても言ことばをもて人ひとの子こに逆󠄃さからふ者ものは赦ゆるされん、然されど言ことばをもて聖󠄃せい靈れいに逆󠄃さからふ者ものは、この世よにても後のちの世よにても赦ゆるされじ。 33 或あるひは樹きをも善よしとし、果みをも善よしとせよ。或あるひは樹きをも惡あしとし、果みをも惡あしとせよ。樹きは果みによりて知しらるるなり。 34 蝮まむしの裔すゑよ、なんぢら惡あしき者ものなるに、爭いかで善よきことを言いひ得えんや。それ心こゝろに滿みつるより口くちに言いはるるなり。 35 善よき人ひとは善よき倉くらより善よき物ものをいだし、惡あしき人ひとは惡あしき倉くらより惡あしき物ものをいだす。 36 われ汝なんぢらに吿つぐ、人ひとの語かたる凡すべての虛むなしき言ことばは、審判󠄄さばきの日ひに糺たゞさるべし。 37 それは汝なんぢの言ことばによりて義ぎとせられ、汝なんぢの言ことばによりて罪つみせらるるなり』

38 爰こゝに或ある學者がくしゃ・パリサイ人びとら答こたへて言いふ『師しよ、われら汝なんぢの徴しるしを見みんことを願ねがふ』 39 答こたへて言いひたまふ『邪󠄅曲よこしまにして不義ふぎなる代よは徴しるしを求もとむ、されど預言者よげんしゃヨナの徴しるしのほかに徴しるしは與あたへられじ。 40 即すなはち「ヨナが三日みっか三夜みよ、大魚おほうをの腹はらの中なかに在ありし」ごとく、人ひとの子こも三日みっか三夜みよ、地ちの中なかに在あるべきなり。 41 ニネベの人ひと、審判󠄄さばきのとき今いまの代よの人ひととともに立たちて之これが罪つみを定さだめん、彼かれらはヨナの宣のぶる言ことばによりて悔改くいあらためたり。視みよ、ヨナよりも勝󠄃まさるもの此處ここに在あり。 42 南みなみの女王にょわう、審判󠄄さばきのとき今いまの代よの人ひととともに起󠄃おきて之これが罪つみを定さだめん、彼かれはソロモンの智慧󠄄ちゑを聽きかんとて地ちの極はてより來きたれり。視みよ、ソロモンよりも勝󠄃まさる者ものここに在あり。 43 穢けがれし靈れい、人ひとを出いづるときは、水みづなき處ところを巡󠄃めぐりて休やすみを求もとむ、而しかして得えず。〘18㌻〙 44 乃すなはち「わが出いでし家いへに歸かへらん」といひ、歸かへりてその家いへの、空󠄃あきて掃󠄃はき淨きよめられ、飾󠄃かざられたるを見み、 45 遂󠄅つひに往󠄃ゆきて己おのれより惡あしき他ほかの七なゝつの靈れいを連󠄃つれきたり、共ともに入いりて此處ここに住󠄃すむ。されば其その人ひとの後のちの狀さまは前󠄃まへよりも惡あしくなるなり。邪󠄅曲よこしまなる此この代よもまた斯かくの如ごとくならん』
 25㌻ 

46 イエスなほ群衆ぐんじゅうにかたり居給ゐたまふとき、視みよ、その母ははと兄弟きゃうだいたちと、彼かれに物もの言いはんとて外そとに立たつ。 47 或ある人ひとイエスに言いふ『視みよ、なんぢの母ははと兄弟きゃうだいたちと、汝なんぢに物もの言いはんとて外そとに立たてり』 48 イエス吿つげし者ものに答こたへて言いひたまふ『わが母ははとは誰たれぞ、わが兄弟きゃうだいとは誰たれぞ』 49 斯かくて手てをのべ、弟子でしたちを指さして言いひたまふ『視みよ、これは我わが母はは、わが兄弟きゃうだいなり。 50 誰たれにても天てんにいます我わが父󠄃ちちの御意みこゝろをおこなふ者ものは、即すなはち我わが兄弟きゃうだい、わが姉妹しまい、わが母ははなり』

第13章

1 その日ひイエスは家いへを出いでて、海邊󠄎うみべに坐ざしたまふ。 2 大おほいなる群衆ぐんじゅうみもとに集あつまりたれば、イエスは舟ふねに乘のりて坐ざしたまひ、群衆ぐんじゅうはみな岸きしに立たてり。 3 譬たとへにて數󠄄多あまたのことを語かたりて言いひたまふ、『視みよ、種たね播まく者ものまかんとて出いづ。 4 播まくとき路みちの傍かたはらに落おちし種たねあり、鳥とりきたりて啄󠄅ついばむ。 5 土つちうすき磽地いしぢに落おちし種たねあり、土つち深ふかからぬによりて速󠄃すみやかに萠もえ出いでたれど、 6 日ひの昇のぼりし時ときやけて根ねなき故ゆゑに枯かる。 7 茨いばらの地ちに落おちし種たねあり、茨いばらそだちて之これを塞ふさぐ。 8 良よき地ちに落おちし種たねあり、或あるひは百ひゃく倍ばい、或あるひは六十ろくじふ倍ばい、或あるひは三十さんじふ倍ばいの實みを結むすべり。 9 耳みゝある[*]者ものは聽きくべし』[*異本「聽く耳」とあり。]

10 弟子でしたち御許みもとに來きたりて言いふ『なにゆゑ譬たとへにて彼かれらに語かたり給たまふか』 11 答こたへて言いひ給たまふ『なんぢらは天國てんこくの奧義おくぎを知しることを許ゆるされたれど、彼かれらは許ゆるされず。 12 それ誰たれにても、有󠄃もてる人ひとは與あたへられて愈󠄃々いよいよ豐ゆたかならん。然されど有󠄃もたぬ人ひとは、その有󠄃もてる物ものをも取とらるべし。 13 この故ゆゑに彼かれらには譬たとへにて語かたる、これ彼かれらは見みゆれども見みず、聞きこゆれども聽きかず、また悟さとらぬ故ゆゑなり、
 26㌻ 
14 斯かくてイザヤの預言よげんは、彼かれらの上うへに成󠄃就じゃうじゅす。曰いはく、 「なんぢら聞ききて聞きけども悟さとらず、 見みて見みれども認󠄃みとめず。 15 此この民たみの心こゝろは鈍にぶく、 耳みゝは聞きくに懶ものうく、 目めは閉とぢたればなり。 これ目めにて見み、耳みゝにて聽きき、 心こゝろにて悟さとり、飜ひるがへりて、 我われに醫いやさるる事ことなからん爲ためなり」〘19㌻〙 16 されど汝なんぢらの目め、なんぢらの耳みゝは、見みるゆゑに聞きくゆゑに、幸福さいはひなり。 17 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、多おほくの預言者よげんしゃ・義人ぎじんは、汝なんぢらが見みる所󠄃ところを見みんとせしが見みず、なんぢらが聞きく所󠄃ところを聞きかんとせしが聞きかざりしなり。 18 然されば汝なんぢら種たね播まく者ものの譬たとへを聽きけ。 19 誰たれにても天國てんこくの言ことばをききて悟さとらぬときは、惡あしき者ものきたりて、其その心こゝろに播まかれたるものを奪うばふ。路みちの傍かたはらに播まかれしとは斯かゝる人ひとなり。 20 磽地いしぢに播まかれしとは、御言みことばをききて、直たゞちに喜よろこび受うくれども、 21 己おのれに根ねなければ暫しばし耐たふるのみにて、御言みことばのために艱難なやみあるひは迫󠄃害󠄅はくがいの起󠄃おこるときは、直たゞちに躓つまづくものなり。 22 茨いばらの中なかに播まかれしとは、御言みことばをきけども、世よの心勞こゝろづかひと財貨たからの惑まどひとに、御言みことばを塞ふさがれて實みのらぬものなり。 23 良よき地ちに播まかれしとは、御言みことばをききて悟さとり、實みを結むすびて、或あるひは百ひゃく倍ばい、あるひは六十ろくじふ倍ばい、あるひは三十さんじふ倍ばいに至いたるものなり』

24 また他ほかの譬たとへを示しめして言いひたまふ『天國てんこくは良よき種たねを畑はたにまく人ひとのごとし。 25 人々ひとびとの眠ねむれる間まに、仇あたきたりて麥むぎのなかに毒󠄂どく麥むぎを播まきて去さりぬ。 26 苗なへはえ出いでて實みのりたるとき、毒󠄂どく麥むぎもあらはる。 27 僕しもべども來きたりて家主いへあるじにいふ「主しゅよ、畑はたに播まきしは良よき種たねならずや、然しかるに如何いかにして毒󠄂どく麥むぎあるか」 28 主人しゅじんいふ「仇あたのなしたるなり」僕しもべども言いふ「さらば我われらが往󠄃ゆきて之これを拔ぬき集あつむるを欲ほっするか」 29 主人しゅじんいふ「いな恐おそらくは毒󠄂どく麥むぎを拔ぬき集あつめんとて、麥むぎをも共ともに拔ぬかん。
 27㌻ 
30 兩ふたつながら收穫かりいれまで育そだつに任まかせよ。收穫かりいれのとき我われかる者ものに「まづ毒󠄂どく麥むぎを拔ぬきあつめて、焚やくために之これを束つかね、麥むぎはあつめて我わが倉くらに納󠄃いれよ」と言いはん」』

31 また他ほかの譬たとへを示しめして言いひたまふ『天國てんこくは一粒ひとつぶの芥種からしだねのごとし、人ひとこれを取とりてその畑はたに播まくときは、 32 萬よろづの種たねよりも小ちひさけれど、育そだちては、他ほかの野菜󠄄やさいよりも大おほきく、樹きとなりて空󠄃そらの鳥とりきたり、其その枝えだに宿やどるほどなり』

33 また他ほかの譬たとへを語かたりたまふ『天國てんこくはパンだねのごとし、女をんなこれを取とりて、三さん斗との粉󠄃こなの中なかに入いるれば、悉ことごく脹ふくれいだすなり』

34 イエスすべて此これ等らのことを、譬たとへにて群衆ぐんじゅうに語かたりたまふ、譬たとへならでは何事なにごとも語かたり給たまはず。 35 これ預言者よげんしゃによりて云いはれたる言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。曰いはく、 『われ譬たとへを設まうけて口くちを開ひらき、 世よの創はじめより隱かくれたる事ことを言いひ出いださん』〘20㌻〙

36 爰こゝに群衆ぐんじゅうを去さらしめて、家いへに入いりたまふ。弟子でしたち御許みもとに來きたりて言いふ『畑はたの毒󠄂どく麥むぎの譬たとへを我われらに解ときたまへ』 37 答こたへて言いひ給たまふ『良よき種たねを播まく者ものは人ひとの子こなり、 38 畑はたは世界せかいなり、良よき種たねは天國てんこくの子こどもなり、毒󠄂どく麥むぎは惡あしき者ものの子こどもなり、 39 之これを播まきし仇あたは惡魔󠄃あくまなり、收穫かりいれは世よの終󠄃をはりなり、刈かる者ものは御使󠄃みつかひたちなり。 40 されば毒󠄂どく麥むぎの集あつめられて火ひに焚やかるる如ごとく、世よの終󠄃をはりにも斯かくあるべし。 41 人ひとの子こ、その使󠄃つかひたちを遣󠄃つかはさん。彼かれら御國みくにの中うちより凡すべての顚躓つまづきとなる物ものと不法ふほふをなす者ものとを集あつめて、 42 火ひの爐ろに投なげ入いるべし、其處そこにて哀哭なげき・切齒はがみすることあらん。 43 其そのとき義人ぎじんは、父󠄃ちちの御國みくににて日ひのごとく輝かゞやかん。[*]耳みゝある者ものは聽きくべし。[*異本「聽く耳」とあり。]

44 天國てんこくは畑はたに隱かくれたる寳たからのごとし。人ひと、見出みいださば之これを隱かくしおきて、喜よろこびゆき、有󠄃もてる物ものをことごとく賣うりて其その畑はたを買かふなり。
 28㌻ 

45 また天國てんこくは良よき眞󠄃珠しんじゅを求もとむる商人あきうどのごとし。 46 價あたひたかき眞󠄃珠しんじゅ、一ひとつを見出みいださば、往󠄃ゆきて有󠄃もてる物ものをことごとく賣うりて、之これを買かふなり。

47 また天國てんこくは海うみにおろして、各樣さまざまのものを集あつむる網󠄄あみのごとし。 48 充みつれば岸きしにひきあげ、坐ざして良よきものを器うつはに入いれ、惡あしきものを棄すつるなり。 49 世よの終󠄃をはりにも斯かくあるべし。御使󠄃みつかひたち出いでて、義人ぎじんの中なかより、惡人あくにんを分󠄃わかちて、 50 之これを火ひの爐ろに投なげ入いるべし。其處そこにて哀哭なげき・切齒はがみすることあらん。

51 汝なんぢ等らこれらの事ことをみな悟さとりしか』彼かれ等らいふ『然しかり』 52 また言いひ給たまふ『この故ゆゑに、天國てんこくのことを敎をしへられたる凡すべての學者がくしゃは、新あたらしき物ものと舊ふるき物ものとをその倉くらより出いだす家主いへあるじのごとし』

53 イエスこれらの譬たとへを終󠄃をへて此處ここを去さりたまふ。 54 己おのが郷さとにいたり、會堂くわいだうにて敎をしへ給たまへば、人々ひとびとおどろきて言いふ『この人ひとはこの智慧󠄄ちゑと此これ等らの能力ちからとを何處いづこより得えしぞ。 55 これ木匠たくみの子こにあらずや、其その母はははマリヤ、其その兄弟きゃうだいはヤコブ、ヨセフ、シモン、ユダにあらずや。 56 又󠄂またその姉妹しまいも皆みなわれらと共ともにをるに非あらずや。然しかるに此これ等らのすべての事ことは何處いづこより得えしぞ』 57 遂󠄅つひに人々ひとびとかれに躓つまづけり。イエス彼かれらに言いひたまふ『預言者よげんしゃは、おのが郷さと、おのが家いへの外ほかにて尊󠄅たふとばれざる事ことなし』 58 彼かれらの不ふ信仰しんかうによりて其處そこにては多おほくの能力ちからある業わざを爲なし給たまはざりき。〘21㌻〙

第14章

1 そのころ、國守こくしゅヘロデ、イエスの噂󠄄うはさをききて、 2 侍臣じしんどもに言いふ『これバプテスマのヨハネなり。かれ死人しにんの中うちより甦よみがへりたり、然さればこそ此これ等らの能力ちからその內うちに働はたらくなれ』 3 ヘロデ先さきに己おのが兄弟きゃうだいピリポの妻つまヘロデヤの爲ためにヨハネを捕とらへ、縛󠄃しばりて獄ひとやに入いれたり。
 29㌻ 
4 ヨハネ、ヘロデに『かの女をんなを納󠄃いるるは宜よろしからず』と言いひしに因よる。 5 斯かくてヘロデ、ヨハネを殺ころさんと思おもへど、群衆ぐんじゅうを懼おそれたり。群衆ぐんじゅうヨハネを預言者よげんしゃとすればなり。 6 然しかるにヘロデの誕󠄅生日たんじゃうびに當あたり、ヘロデヤの娘むすめその席上せきじゃうに舞まひをまひてヘロデを喜よろこばせたれば、 7 ヘロデ之これに何なににても求もとむるままに與あたへんと誓ちかへり。 8 娘むすめその母ははに唆そゝのかされて言いふ『バプテスマのヨハネの首くびを盆󠄃ぼんに載のせてここに賜たまはれ』 9 王わう、憂うれひたれど、その誓ちかひと席せきに在ある者ものとに對たいして、之これを與あたふることを命めいじ、 10 人ひとを遣󠄃つかはし獄ひとやにてヨハネの首くびを斬きり、 11 その首くびを盆󠄃ぼんにのせて持もち來きたらしめ、之これを少女せうじょに與あたふ。少女せうじょはこれを母ははに捧さゝぐ。 12 ヨハネの弟子でしたち來きたり、屍體しかばねを取とりて葬はうむり、往󠄃ゆきて、イエスに吿つぐ。

13 イエス之これを聞ききて人ひとを避󠄃さけ、其處そこより舟ふねにのりて寂さびしき處ところに往󠄃ゆき給たまひしを、群衆ぐんじゅうききて町々まちまちより徒步かちにて從したがひゆく。 14 イエス出いでて大おほいなる群衆ぐんじゅうを見み、これを憫あはれみて、その病やめる者ものを醫いやし給たまへり。 15 夕ゆふべになりたれば、弟子でしたち御許みもとに來きたりて言いふ『ここは寂さびしき處ところ、はや時ときも晩おそし、群衆ぐんじゅうを去さらしめ、村々むらむらに往󠄃ゆきて、己おのが爲ために食󠄃物しょくもつを買かはせ給たまへ』 16 イエス言いひ給たまふ『かれら往󠄃ゆくに及およばず、汝なんぢら之これに食󠄃物しょくもつを與あたへよ』 17 弟子でしたち言いふ『われらが此處ここにもてるは、唯ただ五いつつのパンと二ふたつの魚うをとのみ』 18 イエス言いひ給たまふ『それを我われに持もちきたれ』 19 斯かくて群衆ぐんじゅうに命めいじて、草くさの上うへに坐ざせしめ、五いつつのパンと二ふたつの魚うをとを取とり、天てんを仰あふぎて祝しくし、パンを裂さきて、弟子でしたちに與あたへ給たまへば、弟子でしたち之これを群衆ぐんじゅうに與あたふ。 20 凡すべての人ひと、食󠄃くらひて飽󠄄あく、裂さきたる餘あまりを集あつめしに十二じふにの筐かごに滿みちたり。 21 食󠄃くらひし者ものは、女をんなと子供こどもとを除のぞきて凡おほよそ五ご千せん人にんなりき。
 30㌻ 

22 イエス直たゞちに弟子でしたちを强しひて舟ふねに乘のらせ、自みづから群衆ぐんじゅうをかへす間まに、彼方かなたの岸きしに先さきに往󠄃ゆかしむ。 23 斯かくて群衆ぐんじゅうを去さらしめてのち、祈いのらんとて窃ひそかに山やまに登のぼり、夕ゆふべになりて獨ひとりそこにゐ給たまふ。 24 舟ふねははや[*]陸をかより數󠄄丁すうちゃうはなれ、風かぜ逆󠄃さからふによりて波なみに難なやまされゐたり。[*異本「海の眞󠄃中に在り」と譯す。] 25 夜明よあけの四時よじごろ、イエス海うみの上うへを步あゆみて、彼かれらに到いたり給たまひしに、〘22㌻〙 26 弟子でしたち其その海うみの上うへを步あゆみ給たまふを見みて心こゝろ騷さわぎ、變化へんげの者ものなりと言いひて懼おそれ叫さけぶ。 27 イエス直たゞちに彼かれらに語かたりて言いひたまふ『心こゝろ安やすかれ、我われなり、懼おそるな』 28 ペテロ答こたへて言いふ『主しゅよ、もし汝なんぢならば我われに命めいじ、水みづを蹈ふみて、御許みもとに到いたらしめ給たまへ』 29 『來きたれ』と言いひ給たまへば、ペテロ舟ふねより下おり、水みづの上うへを步あゆみてイエスの許もとに往󠄃ゆく。 30 然しかるに風かぜを見みて懼おそれ、沈しづみかかりければ叫さけびて言いふ『主しゅよ、我われを救すくひたまへ』 31 イエス直たゞちに御手みてを伸のべ、これを捉とらへて言いひ給たまふ『ああ信仰しんかううすき者ものよ、何なにぞ疑うたがふか』 32 相あひ共ともに舟ふねに乘のりしとき、風かぜやみたり。 33 舟ふねに居をる者ものどもイエスを拜はいして言いふ『まことに汝なんぢは神かみの子こなり』

34 遂󠄅つひに渡わたりてゲネサレの地ちに著つきしに、 35 その處ところの人々ひとびとイエスを認󠄃みとめて、徧あまねく四方しはうに人ひとをつかはし、又󠄂またすべての病やめる者ものを連󠄃つれきたり、 36 ただ御衣みころもの總󠄂ふさにだに觸さはらしめ給たまはんことを願ねがふ、觸さはりし者ものはみな醫いやされたり。

第15章

1 爰こゝにパリサイ人びと・學者がくしゃら、エルサレムより來きたりてイエスに言いふ、 2 『なにゆゑ汝なんぢの弟子でしは、古いにしへの人ひとの言傳いひつたへを犯をかすか、食󠄃事しょくじのときに手てを洗あらはぬなり』 3 答こたへて言いひ給たまふ『なにゆゑ汝なんぢらは、また汝なんぢらの言傳いひつたへによりて神かみの誡命いましめを犯をかすか。 4 即すなはち神かみは「父󠄃ちち母ははを敬うやまへ」と言いひ「父󠄃ちちまたは母ははを罵のゝしる者ものは必かならず殺ころさるべし」と言いひたまへり。 5 然しかるに汝なんぢらは「誰たれにても父󠄃ちちまたは母ははに對むかひて我わが負󠄅おふ所󠄃ところのものは、供物そなへものとなりたりと言いはば、
 31㌻ 
6 父󠄃ちちまたは母ははを敬うやまふに及およばず」と言いふ。斯かくその言傳いひつたへによりて神かみの言ことばを空󠄃むなしうす。 7 僞善者ぎぜんしゃよ、宜うべなる哉かなイザヤは汝なんぢらに就つきて能よく預言よげんせり。曰いはく、 8 「この民たみは口唇くちびるにて我われを敬うやまふ、 然されど其その心こゝろは我われに遠󠄄とほざかる。 9 ただ徒いたづらに我われを拜をがむ。 人ひとの訓誡いましめを敎をしへとし敎をしへて」』 10 斯かくて群衆ぐんじゅうを呼よび寄よせて言いひたまふ『聽ききて悟さとれ。 11 口くちに入いるものは人ひとを汚けがさず、然されど口くちより出いづるものは、これ人ひとを汚けがすなり』 12 爰こゝに弟子でしたち御許みもとに來きたりていふ『御言みことばをききてパリサイ人びとの躓つまづきたるを知しり給たまふか』 13 答こたへて言いひ給たまふ『わが天てんの父󠄃ちちの植うゑ給たまはぬものは、みな拔ぬかれん。 14 彼かれらを捨󠄃すておけ、盲人めしひを手引てびきする盲人めしひなり、盲人めしひもし盲人めしひを手引てびきせば、二人ふたりとも穴󠄄あなに落おちん』 15 ペテロ答こたへて言いふ『その譬たとへを我われらに解とき給たまへ』〘23㌻〙 16 イエス言いひ給たまふ『なんぢらも今いまなほ悟さとりなきか。 17 凡すべて口くちに入いるものは腹はらにゆき、遂󠄅つひに厠かはやに棄すてらるる事ことを悟さとらぬか。 18 然されど口くちより出いづるものは心こゝろより出いづ、これ人ひとを汚けがすものなり。 19 それ心こゝろより惡あしき念おもひいづ、即すなはち殺人ひとごろし・姦淫かんいん・淫行いんかう・竊盜ぬすみ・僞證ぎしょう・誹謗そしり、 20 これらは人ひとを汚けがすものなり、然されど洗あらはぬ手てにて食󠄃しょくする事ことは人ひとを汚けがさず』

21 イエスここを去さりてツロとシドンとの地方ちはうに往󠄃ゆき給たまふ。 22 視みよ、カナンの女をんな、その邊󠄎ほとりより出いできたり、叫さけびて『主しゅよ、ダビデの子こよ、我われを憫あはれみ給たまへ、わが娘むすめ、惡鬼あくきにつかれて甚いたく苦くるしむ』と言いふ。 23 されどイエス一言ひとことも答こたへ給たまはず。弟子でしたち來きたり請󠄃こひて言いふ『女をんなを歸かへしたまへ、我われらの後あとより叫さけぶなり』 24 答こたへて言いひたまふ『我われはイスラエルの家いへの失うせたる羊ひつじのほかに遣󠄃つかはされず』 25 女をんなきたり拜はいして言いふ『主しゅよ、我われを助たすけたまへ』 26 答こたへて言いひたまふ『子供こどものパンをとりて、小狗こいぬに投なげ與あたふるは善よからず』 27 女をんないふ『然しかり、主しゅよ、小狗こいぬも主人しゅじんの食󠄃卓しょくたくよりおつる食󠄃屑たべくずを食󠄃くらふなり』
 32㌻ 
28 爰こゝにイエス答こたへて言いひたまふ『をんなよ、汝なんぢの信仰しんかうは大おほいなるかな、願ねがひのごとく汝なんぢになれ』娘むすめこの時ときより癒󠄄いえたり。

29 イエス此處ここを去さり、ガリラヤの海邊󠄎うみべにいたり、而しかして山やまに登のぼり、そこに坐ざし給たまふ。 30 大おほいなる群衆ぐんじゅう、跛者あしなへ・不具󠄄かたは・盲人めしひ・啞者おふしおよび他ほかの多おほくの者ものを連󠄃つれ來きたりて、イエスの足下あしもとに置おきたれば、醫いやし給たまへり。 31 群衆ぐんじゅうは、啞者おふしの物ものいひ、不具󠄄かたはの癒󠄄いえ、跛者あしなへの步あゆみ、盲人めしひの見みえたるを見みて之これを怪あやしみ、イスラエルの神かみを崇あがめたり。

32 イエス弟子でしたちを召めして言いひ給たまふ『われ此この群衆ぐんじゅうをあはれむ、旣󠄁すでに三日みっかわれと偕ともにをりて食󠄃くらふべき物ものなし。飢󠄄うゑたるままにて歸かへらしむるを好このまず、恐おそらくは途󠄃みちにて疲つかれ果はてん』 33 弟子でしたち言いふ『この寂さびしき地ちにて、斯かく大おほいなる群衆ぐんじゅうを飽󠄄あかしむべき多おほくのパンを、何處いづこより得うべき』 34 イエス言いひ給たまふ『パン幾いくつあるか』彼かれらいふ『七なゝつ、また小ちひさき魚うをすこしあり』 35 イエス群衆ぐんじゅうに命めいじて地ちに坐ざせしめ、 36 七なゝつのパンと魚うをとを取とり、謝󠄃しゃして之これをさき弟子でしたちに與あたへ給たまへば、弟子でしたち之これを群衆ぐんじゅうに與あたふ。 37 凡すべての人ひとくらひて飽󠄄あき、裂さきたる餘あまりを拾ひろひしに、七なゝつの籃かごに滿みちたり。 38 食󠄃くらひし者ものは、女をんなと子供こどもとを除のぞきて四千しせん人にんなりき。 39 イエス群衆ぐんじゅうをかへし、舟ふねに乘のりてマガダンの地方ちはうに往󠄃ゆき給たまへり。〘24㌻〙

第16章

1 パリサイ人びととサドカイ人びとと來きたりてイエスを試こゝろみ、天てんよりの徴しるしを示しめさんことを請󠄃こふ。 2 答こたへて言いひたまふ『夕ゆふべには汝なんぢら「空󠄃そらあかき故ゆゑに、晴はれならん」と言いひ、 3 また朝󠄃あしたには「そら赤あかくして曇くもる故ゆゑに、今日けふは風雨あれならん」と言いふ。なんぢら空󠄃そらの氣色けしきを見分󠄃みわくることを知しりて、時ときの徴しるしを見分󠄃みわくること能あたはぬか。 4 邪󠄅曲よこしまにして不義ふぎなる代よは徴しるしを求もとむ、然されどヨナの徴しるしの外ほかに徴しるしは與あたへられじ』斯かくて彼かれらを離はなれて去さり給たまひぬ。
 33㌻ 

5 弟子でしたち彼方かなたの岸きしに到いたりしに、パンを携たづさふることを忘󠄃わすれたり。 6 イエス言いひたまふ『愼つゝしみてパリサイ人びととサドカイ人びととのパン種だねに心こゝろせよ』 7 弟子でしたち互たがひに『[*]我われらはパンを携たづさへざりき』と語かたり合あふ。[*或は「これはパンを携へざりし故ならん」と譯す。] 8 イエス之これを知しりて言いひ給たまふ『ああ信仰しんかううすき者ものよ、何なにぞ[*]パン無なきことを語かたり合あふか。[*或は「パンなき故ならんと語り合ふか」と譯す。] 9 未いまだ悟さとらぬか、五いつつのパンを五ご千せん人にんに分󠄃わかちて、その餘あまりを幾籃いくかごひろひ、 10 また七なゝつのパンを四千しせん人にんに分󠄃わかちて、その餘あまりを幾籃いくかごひろひしかを覺おぼえぬか。 11 我わが言いひしはパンの事ことにあらぬを何なんぞ悟さとらざる。唯たゞパリサイ人びととサドカイ人びととのパンだねに心こゝろせよ』 12 爰こゝに弟子でしたちイエスの心こゝろせよと言いひ給たまひしは、パンの種たねにはあらで、パリサイ人びととサドカイ人びととの敎をしへなることを悟さとれり。

13 イエス、ピリポ・カイザリヤの地方ちはうにいたり、弟子でしたちに問とひて言いひたまふ『人々ひとびとは人ひとの子こを誰たれと言いふか』 14 彼かれ等らいふ『或ある人ひとはバプテスマのヨハネ、或ある人ひとはエリヤ、或ある人ひとはエレミヤ、また預言者よげんしゃの一人ひとり』 15 彼かれらに言いひたまふ『なんぢらは我われを誰たれと言いふか』 16 シモン・ペテロ答こたへて言いふ『なんぢはキリスト、活いける神かみの子こなり』 17 イエス答こたへて言いひ給たまふ『バルヨナ・シモン、汝なんぢは幸福さいはひなり、汝なんぢに之これを示しめしたるは血肉󠄁けつにくにあらず、天てんにいます我わが父󠄃ちちなり。 18 我われはまた汝なんぢに吿つぐ、汝なんぢは[*]ペテロなり、我われこの磐いはの上うへに我わが敎會けうくわいを建󠄄たてん、黃泉よみの門もんはこれに勝󠄃かたざるべし。[*ペテロとは「磐」の義なり。] 19 われ天國てんこくの鍵󠄃かぎを汝なんぢに與あたへん、凡おほよそ汝なんぢが地ちにて[*]縛󠄃つなぐ所󠄃ところは天てんにても縛󠄃つなぎ、地ちにて解とく所󠄃ところは天てんにても解とくなり』[*或は「禁ずる所󠄃は天にても禁じ、地にて許す所󠄃は天にても許さん」と譯す。] 20 爰こゝにイエス己おのがキリストなる事ことを誰たれにも吿つぐなと弟子でしたちを戒いましめ給たまへり。
 34㌻ 

21 この時ときよりイエス・キリスト、弟子でしたちに、己おのれのエルサレムに往󠄃ゆきて、長老ちゃうらう・祭司長さいしちゃう・學者がくしゃらより多おほくの苦難くるしみを受うけ、かつ殺ころされ、三日みっかめに甦よみがへるべき事ことを示しめし始はじめたまふ。 22 ペテロ、イエスを傍かたへにひき戒いましめ出いでて言いふ『主しゅよ、[*]然しかあらざれ、此この事ことなんぢに起󠄃おこらざるべし』[*原語「汝に憐みあれ」との義なり。]〘25㌻〙 23 イエス振反ふりかへりてペテロに言いひ給たまふ『サタンよ、我わが後うしろに退󠄃しりぞけ、汝なんぢはわが躓物つまづきなり、汝なんぢは神かみのことを思おもはず、反かへつて人ひとのことを思おもふ』 24 爰こゝにイエス弟子でしたちに言いひたまふ『人ひともし我われに從したがひ來きたらんと思おもはば、己おのれをすて、己おのが十字架じふじかを負󠄅おひて、我われに從したがへ。 25 己おのが生命いのちを救すくはんと思おもふ者ものは、これを失うしなひ、我わがために、己おのが生命いのちをうしなふ者ものは、之これを得うべし。 26 人ひと、全󠄃世界ぜんせかいを贏󠄅まうくとも、己おのが生命いのちを損そんせば、何なにの益えきあらん、又󠄂またその生命いのちの代しろに何なにを與あたへんや。 27 人ひとの子こは父󠄃ちちの榮光えいくわうをもて、御使󠄃みつかひたちと共ともに來きたらん。その時ときおのおのの行爲おこなひに隨したがひて報むくゆべし。 28 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、ここに立たつ者もののうちに、人ひとの子このその國くにをもて來きたるを見みるまでは、死しを味あぢはぬ者ものどもあり』

第17章

1 六日むゆかの後のち、イエス、ペテロ、ヤコブ及およびヤコブの兄弟きゃうだいヨハネを率󠄃ひきつれ、人ひとを避󠄃さけて高たかき山やまに登のぼりたまふ。 2 斯かくて彼かれらの前󠄃まへにてその狀さまかはり、其その顏かほは日ひのごとく輝かゞやき、その衣ころもは光ひかりのごとく白しろくなりぬ。 3 視みよ、モーセとエリヤとイエスに語かたりつつ彼かれらに現あらはる。 4 ペテロ差出さしいでてイエスに言いふ『主しゅよ、我われらの此處ここに居をるは善よし。御意みこゝろならば我われここに三みつの廬いほりを造󠄃つくり、一ひとつを汝なんぢのため、一ひとつをモーセのため、一ひとつをエリヤの爲ためにせん』 5 彼かれなほ語かたりをるとき、視みよ、光ひかれる雲くも、かれらを覆󠄄おほふ。また雲くもより聲こゑあり、曰いはく『これは我わが愛いつくしむ子こ、わが悅よろこぶ者ものなり、汝なんぢら之これに聽きけ』
 35㌻ 
6 弟子でしたち之これを聞ききて倒たふれ伏ふし、懼おそるること甚はなはだし。 7 イエスその許もとにきたり之これに觸さはりて『起󠄃おきよ、懼おそるな』と言いひ給たまへば、 8 彼かれら目めを擧あげしに、イエス一人ひとりの他ほかは誰たれも見みえざりき。

9 山やまを下くだるとき、イエス彼かれらに命めいじて言いひたまふ『人ひとの子この死人しにんの中うちより甦よみがへるまでは、見みたることを誰たれにも語かたるな』 10 弟子でしたち問とひて言いふ『さらば、エリヤ先まづ來きたるべしと學者がくしゃらの言いふは何なんぞ』 11 答こたへて言いひたまふ『實げにエリヤ來きたりて萬よろづの事ことをあらためん。 12 我われなんぢらに吿つぐ、エリヤは旣󠄁すでに來きたれり。然されど人々ひとびとこれを知しらず、反かへつて心こゝろのままに待あしらへり。斯かくのごとく人ひとの子こもまた人々ひとびとより苦くるしめらるべし』 13 爰こゝに弟子でしたちバプテスマのヨハネを指さして言いひ給たまひしなるを悟さとれり。〘26㌻〙

14 かれら群衆ぐんじゅうの許もとに到いたりしとき、或ある人ひと、御許みもとにきたり跪ひざまづきて言いふ、 15 『主しゅよ、わが子こを憫あはれみたまへ。癲癎てんかんにて難なやみ、しばしば火ひの中なかに、しばしば水みづの中なかに倒たふるるなり。 16 之これを御弟子みでしたちに連󠄃つれ來きたりしに、醫いやすこと能あたはざりき』 17 イエス答こたへて言いひ給たまふ『ああ信しんなき曲まがれる代よなるかな、我われいつまで汝なんぢらと偕ともにをらん、何時いつまで汝なんぢらを忍󠄄しのばん。その子こを我われに連󠄃つれきたれ』 18 遂󠄅つひにイエスこれを禁いましめ給たまへば、惡鬼あくきいでてその子ここの時ときより癒󠄄いえたり。 19 爰こゝに弟子でしたち窃ひそかにイエスに來きたりて言いふ『われらは何なに故ゆゑに逐󠄃おひ出いだし得えざりしか』 20 彼かれらに言いひ給たまふ『なんぢら信仰しんかううすき故ゆゑなり。誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、もし芥種からしだね一粒ひとつぶほどの信仰しんかうあらば、この山やまに「此處ここより彼處かしこに移うつれ」と言いふとも移うつらん、斯かくて汝なんぢら能あたはぬこと無なかるべし』 21 [なし][*][*異本「この類は祈と斷食󠄃とに由らざれば出でぬなり」とあり。]
 36㌻ 

22 彼かれらガリラヤに集つどひをる時とき、イエス言いひたまふ『人ひとの子こは人ひとの手てに付わたされ、 23 人々ひとびとは之これを殺ころさん、斯かくて三日みっかめに甦よみがへるべし』弟子でしたち甚いたく悲かなしめり。

24 彼かれらカペナウムに到いたりしとき、納󠄃金をさめきんを集あつむる者ものども、ペテロに來きたりて言いふ『なんぢらの師しは納󠄃金をさめきんを納󠄃をさめぬか』 25 ペテロ『納󠄃をさむ』と言いひ、頓やがて家いへに入いりしに、逸速󠄃いちはやくイエス言いひ給たまふ『シモンいかに思おもふか、世よの王わうたちは税ぜいまたは貢みつぎを誰たれより取とるか、己おのが子こよりか、他ほかの者ものよりか』 26 ペテロ言いふ『ほかの者ものより』イエス言いひ給たまふ『されば子こは自由じいうなり。 27 されど彼かれらを躓つまづかせぬ爲ために、海うみに往󠄃ゆきて釣つりをたれ、初はじめに上あがる魚うををとれ、其その口くちをひらかば[*]銀貨ぎんくわ一ひとつを得えん、それを取とりて我われと汝なんぢとの爲ために納󠄃をさめよ』[*原語「スタテール」]

第18章

1 そのとき弟子でしたち、イエスに來きたりて言いふ『しからば天國てんこくにて大おほいなるは誰たれか』 2 イエス幼兒をさなごを呼よび、彼かれらの中なかに置おきて言いひ給たまふ 3 『まことに汝なんぢらに吿つぐ、もし汝なんぢら飜ひるがへりて幼兒をさなごの如ごとくならずば、天國てんこくに入いるを得えじ。 4 されば誰たれにても此この幼兒をさなごのごとく己おのれを卑ひくうする者ものは、これ天國てんこくにて大おほいなる者ものなり。 5 また我わが名なのために、斯かくのごとき一人ひとりの幼兒をさなごを受うくる者ものは、我われを受うくるなり。 6 然されど我われを信しんずる此この小ちひさき者ものの一人ひとりを躓つまづかする者ものは、寧むしろ大おほいなる碾臼ひきうすを頸くびに懸かけられ、海うみの深處ふかみに沈しづめられんかた益えきなり。 7 この世よは躓物つまづきあるによりて禍害󠄅わざはひなるかな。躓物つまづきは必かならず來きたらん、されど躓物つまづきを來きたらする人ひとは禍害󠄅わざはひなるかな。〘27㌻〙 8 もし汝なんぢの手て、または足あし、なんぢを躓つまづかせば、切きりて棄すてよ。不具󠄄かたはまたは蹇跛あしなへにて生命いのちに入いるは、兩手りゃうて・兩足りゃうあしありて永遠󠄄とこしへの火ひに投なげ入いれらるるよりも勝󠄃まさるなり。 9 もし汝なんぢの眼め、なんぢを躓つまづかせば拔ぬきて棄すてよ。片眼かためにて生命いのちに入いるは、兩眼りゃうめありて火ひのゲヘナに投なげ入いれらるるよりも勝󠄃まさるなり。
 37㌻ 
10 汝なんぢら愼つゝしみて此この小ちひさき者ものの一人ひとりをも侮あなどるな。我われなんぢらに吿つぐ、彼かれらの御使󠄃みつかひたちは天てんにありて、天てんにいます我わが父󠄃ちちの御顏みかほを常つねに見みるなり。 11 [なし][*][*異本「それ人の子の來れるに失せたる者を救はん爲なり」との句あり。] 12 汝なんぢ等らいかに思おもふか、百匹󠄃ひゃくひきの羊ひつじを有󠄃もてる人ひとあらんに、若もしその一匹󠄃いっぴきまよはば、九く十じふ九く匹󠄃ひきを山やまに遺󠄃のこしおき、往󠄃ゆきて迷󠄃まよへるものを尋󠄃たづねぬか。 13 もし之これを見出みいださば、誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、迷󠄃まよはぬ九く十じふ九く匹󠄃ひきに勝󠄃まさりて此この一匹󠄃いっぴきを喜よろこばん。 14 斯かくのごとく此この小ちひさき者ものの一人ひとりの亡ほろぶるは、天てんにいます汝なんぢらの父󠄃ちちの御意みこゝろにあらず。

15 もし汝なんぢの兄弟きゃうだい、罪つみを犯をかさば、往󠄃ゆきてただ彼かれとのみ、相あひ對たいして諫いさめよ。もし聽きかば其その兄弟きゃうだいを得えたるなり。 16 もし聽きかずば一人ひとり・二人ふたりを伴󠄃ともなひ往󠄃ゆけ、これ二に三さんの證人しょうにんの口くちに由よりて、凡すべての事ことの慥たしかめられん爲ためなり。 17 もし彼かれ等らにも聽きかずば、敎會けうくわいに吿つげよ。もし敎會けうくわいにも聽きかずば、之これを異邦󠄆人いはうじんまたは取税人しゅぜいにんのごとき者ものとすべし。 18 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、すべて汝なんぢらが地ちにて[*]縛󠄃つなぐ所󠄃ところは天てんにても縛󠄃つなぎ、地ちにて解とく所󠄃ところは天てんにても解とくなり。[*或は「禁ずる所󠄃は天にても禁じ、地にて許す所󠄃は天にても許すなり」と譯す。] 19 また誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、もし汝なんぢ等らのうち二人ふたり、何なににても求もとむる事ことにつき地ちにて心こゝろを一ひとつにせば、天てんにいます我わが父󠄃ちちは之これを成󠄃なし給たまふべし。 20 二三人にさんにんわが名なによりて集あつまる所󠄃ところには、我われもその中うちに在あるなり』

21 爰こゝにペテロ御許みもとに來きたりて言いふ『主しゅよ、わが兄弟きゃうだいわれに對たいして罪つみを犯をかさば幾いくたび赦ゆるすべきか、七度なゝたびまでか』 22 イエス言いひたまふ『否いなわれ「七度なゞたびまで」とは言いはず「七度なゝたびを七しち十じふ倍ばいするまで」と言いふなり。 23 この故ゆゑに天國てんこくはその家來けらいどもと計算けいさんをなさんとする王わうのごとし。 24 計算けいさんを始はじめしとき、一萬いちまんタラントの負󠄅債おひめある家來けらいつれ來きたられしが、 25 償つくのひ方かたなかりしかば、其その主人しゅじん、この者ものと、その妻つま子こと凡すべての所󠄃有󠄃もちものとを賣うりて償つぐのふことを命めいじたるに、
 38㌻ 
26 その家來けらいひれ伏ふし、拜はいして言いふ「寛ゆるくし給たまへ、さらば悉ことごとく償つぐのはん」 27 その家來けらいの主人しゅじん、あはれみて之これを解とき、その負󠄅債おひめを免ゆるしたり。 28 然しかるに其その家來けらいいでて、己おのれより百ひゃくデナリを負󠄅おひたる一人ひとりの同僚どうれうにあひ、之これをとらへ、喉のどを締しめて言いふ「負󠄅債おひめを償つぐのへ」 29 その同僚どうれうひれ伏ふし、願ねがひて「寛ゆるくし給たまへ、さらば償つぐのはん」と言いへど、 30 肯うけがはずして往󠄃ゆき、その負󠄅債おひめを償つぐのふまで之これを獄ひとやに入いれたり。〘28㌻〙 31 同僚どうれうども有󠄃ありし事ことを見みて甚いたく悲かなしみ、往󠄃ゆきて有󠄃ありし凡すべての事ことをその主人しゅじんに吿つぐ。 32 ここに主人しゅじんかれを呼よび出いだして言いふ「惡あしき家來けらいよ、なんぢ願ねがひしによりて、かの負󠄅債おひめをことごとく免ゆるせり。 33 わが汝なんぢを憫あはれみしごとく汝なんぢもまた同僚どうれうを憫あはれむべきにあらずや」 34 斯かくその主人しゅじん、怒いかりて、負󠄅債おひめをことごとく償つくのふまで彼かれを獄卒ごくそつに付わたせり。 35 もし汝なんぢ等らおのおの心こゝろより兄弟きゃうだいを赦ゆるさずば、我わが天てんの父󠄃ちちも亦またなんぢらに斯かくのごとく爲なし給たまふべし』

第19章

1 イエスこれらの言ことばを語かたり終󠄃をへてガリラヤを去さり、ヨルダンの彼方かなたなるユダヤの地方ちはうに來きたり給たまひしに、 2 大おほいなる群衆ぐんじゅう、從したがひたれば、此處ここにて彼かれらを醫いやし給たまへり。

3 パリサイ人びとら來きたり、イエスを試こゝろみて言いふ『何なにの故ゆゑにかかはらず、人ひとその妻つまを出いだすは可よきか』 4 答こたへて言いひたまふ『人ひとを造󠄃つくり給たまひしもの、元始はじめより之これを男をとこと女をんなとに造󠄃つくり、而しかして、 5 「斯かゝる故ゆゑに人ひとは父󠄃ちち母ははを離はなれ、その妻つまに合あひて、二人ふたりのもの一體いったいとなるべし」と言いひ給たまひしを未いまだ讀よまぬか。 6 然されば、はや二人ふたりにはあらず、一體いったいなり。この故ゆゑに神かみの合あはせ給たまひし者ものは人ひとこれを離はなすべからず』 7 彼かれらイエスに言いふ『さらば何なに故ゆゑモーセは離緣狀りえんじゃうを與あたへて出いだすことを命めいじたるか』 8 彼かれらに言いひ給たまふ『モーセは汝なんぢの心こゝろ、無情󠄃つれなきによりて妻つまを出いだすことを許ゆるしたり。されど元始はじめより然さにはあらぬなり。
 39㌻ 
9 われ汝なんぢらに吿つぐ、[*]おほよそ淫行いんかうの故ゆゑならで其その妻つまをいだし、他ほかに娶めとる者ものは姦淫かんいんを行おこなふなり』[*異本に五章三二と同一の句あり。] 10 弟子でしたちイエスに言いふ『人ひともし妻つまのことに於おいて斯かくのごとくば、娶めとらざるに如しかず』 11 彼かれらに言いひたまふ『凡すべての人ひとこの言ことばを受うけ容いるるにはあらず、ただ授さづけられたる者もののみなり。 12 それ生うまれながらの閹人えんじんあり、人ひとに爲せられたる閹人えんじんあり、また天國てんこくのために自みづからなりたる閹人えんじんあり、之これを受うけ容いれうる者ものは受うけ容いるべし』

13 爰こゝに人々ひとびとイエスの手てをおきて祈いのり給たまはんことを望󠄇のぞみて、幼兒をさなごらを連󠄃つれ來きたりしに、弟子でしたち禁いましめたれば、 14 イエス言いひたまふ『幼兒をさなごらを許ゆるせ、我われに來きたるを止とゞむな、天國てんこくは斯かくのごとき者ものの國くになり』 15 斯かくて手てを彼かれらの上うへにおきて此處ここを去さり給たまへり。

16 視みよ、或ある人ひとみもとに來きたりて言いふ『師しよ、われ永遠󠄄とこしへの生命いのちをうる爲ためには如何いかなる善よき事ことを爲なすべきか』〘29㌻〙 17 イエス言いひたまふ『善よき事ことにつきて何なんぞ我われに問とふか、善よき者ものは唯たゞひとりのみ。汝なんぢもし生命いのちに入いらんと思おもはば誡命いましめを守まもれ』 18 彼かれいふ『孰いづれを』イエス言いひたまふ『「殺ころすなかれ」「姦淫かんいんするなかれ」「盜ぬすむなかれ」「僞證ぎしょうを立たつる勿なかれ」 19 「父󠄃ちちと母ははとを敬うやまへ」また「己おのれのごとく汝なんぢの隣となりを愛あいすべし」』 20 その若者わかものいふ『我われみな之これを守まもれり、なほ何なにを缺かくか』 21 イエス言いひたまふ『なんぢ若もし全󠄃まったからんと思おもはば、往󠄃ゆきて汝なんぢの所󠄃有󠄃もちものを賣うりて貧󠄃まづしき者ものに施ほどこせ、さらば財寳たからを天てんに得えん。かつ來きたりて我われに從したがへ』 22 この言ことばをききて若者わかもの、悲かなしみつつ去さりぬ。大おほいなる資󠄄產しさんを有󠄃もてる故ゆゑなり。

23 イエス弟子でしたちに言いひ給たまふ『まことに汝なんぢらに吿つぐ、富とめる者ものの天國てんこくに入いるは難かたし。 24 復またなんぢらに吿つぐ、富とめる者ものの神かみの國くにに入いるよりは、駱駝らくだの針はりの孔あなを通󠄃とほるかた反かへつて易やすし』 25 弟子でしたち之これをきき、甚はなはだしく驚をどろきて言いふ『さらば誰たれか救すくはるることを得えん』
 40㌻ 
26 イエス彼かれらに目めを注とめて言いひ給たまふ『これは人ひとに能あたはねど神かみは凡すべての事ことをなし得うるなり』 27 爰こゝにペテロ答こたへて言いふ『視みよ、われら一切いっさいをすてて汝なんぢに從したがへり、然されば何なにを得うべきか』 28 イエス彼かれらに言いひ給たまふ『まことに汝なんぢらに吿つぐ、世よあらたまりて人ひとの子こその榮光えいくわうの座位くらゐに坐ざするとき、我われに從したがへる汝なんぢ等らもまた十二じふにの座位くらゐに坐ざしてイスラエルの十二じふにの族やからを審さばかん。 29 また凡おほよそ我わが名なのために或あるひは家いへ、或あるひは兄弟きゃうだい、あるひは姉妹しまい、あるひは父󠄃ちち、或あるひは母はは、或あるひは子こ、或あるひは田畑たはたを棄すつる者ものは數󠄄倍すうばいを受うけ、また永遠󠄄とこしへの生命いのちを嗣つがん。 30 然されど多おほくの先さきなる者もの後あとに、後あとなる者もの先さきになるべし。

第20章

1 天國てんこくは勞動人はたらきびとを葡萄園ぶだうぞのに雇󠄃やとふために、朝󠄃あさ早はやく出いでたる主人あるじのごとし。 2 一日いちにち、一いちデナリの約束やくそくをなして、勞動人はたらきびとどもを葡萄園ぶだうぞのに遣󠄃つかはす。 3 また九時くじごろ出いでて市場いちばに空󠄃むなしく立たつ者ものどもを見みて、 4 「なんぢらも葡萄園ぶだうぞのに往󠄃ゆけ、相當さうたうのものを與あたへん」といへば、彼かれらも往󠄃ゆく。 5 十二じふに時じ頃ころと三時さんじ頃ころとに復またいでて前󠄃まへのごとくす。 6 五ご時じ頃ころまた出いでしに、なほ立たつ者ものどものあるを見みていふ「何なにゆゑ終󠄃日ひねもすここに空󠄃むなしく立たつか」 7 かれら言いふ「たれも我われらを雇󠄃やとはぬ故ゆゑなり」主人あるじいふ「なんぢらも葡萄園ぶだうぞのに往󠄃ゆけ」 8 夕ゆふべになりて葡萄園ぶだうぞのの主人あるじその家いへ司つかさに言いふ「勞動人はたらきびとを呼よびて、後あとの者ものより始はじめ先さきの者ものにまで賃銀ちんぎんをはらへ」 9 斯かくて五ご時じごろに雇󠄃やとはれしもの來きたりて、おのおの一いちデナリを受うく。〘30㌻〙 10 先さきの者ものきたりて、多おほく受うくるならんと思おもひしに、之これも亦またおのおの一いちデナリを受うく。 11 受うけしとき、家主いへあるじにむかひ呟つぶやきて言いふ、 12 「この後あとの者ものどもは僅わづかに一いち時間じかんはたらきたるに、汝なんぢは一日いちにちの勞らうと暑あつさとを忍󠄄しのびたる我われらと均ひとしく、之これを遇󠄃あしらへり」 13 主人あるじこたへて其その一人ひとりに言いふ「友ともよ、我われなんぢに不正ふせいをなさず、汝なんぢは我われと一いちデナリの約束やくそくをせしにあらずや。
 41㌻ 
14 己おのが物ものを取とりて往󠄃ゆけ、この後あとの者ものに汝なんぢとひとしく與あたふるは、我わが意こゝろなり。 15 わが物ものを我わが意こゝろのままに爲するは可よからずや、我われよきが故ゆゑに汝なんぢの目めあしきか」 16 斯かくのごとく後あとなる者ものは先さきに、先さきなる者ものは後あとになるべし』

17 イエス、エルサレムに上のぼらんと爲し給たまふとき、窃ひそかに十二じふに弟子でしを近󠄃ちかづけて、途󠄃みちすがら言いひ給たまふ、 18 『視みよ、我われらエルサレムに上のぼる、人ひとの子こは祭司長さいしちゃう・學者がくしゃらに付わたされん。彼かれら之これを死しに定さだめ、 19 また嘲󠄂弄てうろうし、鞭むちうち、十字架じふじかにつけん爲ために異邦󠄆人いはうじんに付わたさん、斯かくて彼かれは三日みっかめに甦よみがへるべし』

20 爰こゝにゼベダイの子こらの母はは、その子こらと共ともに御許みもとにきたり、拜はいして何事なにごとか求もとめんとしたるに、 21 イエス彼かれに言いひたまふ『何なにを望󠄇のぞむか』かれ言いふ『この我わが二人ふたりの子こが汝なんぢの御國みくににて一人ひとりは汝なんぢの右みぎに、一人ひとりは左ひだりに坐ざせんことを命めいじ給たまへ』 22 イエス答こたへて言いひ給たまふ『なんぢらは求もとむる所󠄃ところを知しらず、我わが飮のまんとする酒杯さかづきを飮のみ得うるか』かれら言いふ『得うるなり』 23 イエス言いひたまふ『實げに汝なんぢらは我わが酒杯さかづきを飮のむべし、然されど我わが右みぎ左ひだりに坐ざすることは、これ我われの與あたふべきものならず、我わが父󠄃ちちより備そなへられたる人ひとこそ與あたへらるるなれ』 24 十じふ人にんの弟子でしこれを聞きき、二人ふたりの兄弟きゃうだいの事ことによりて憤いきどほる。 25 イエス彼かれらを呼よびて言いひたまふ『異邦󠄆人いはうじんの君きみのその民たみを宰つかさどり、大おほいなる者ものの民たみの上うへに權けんを執とることは汝なんぢらの知しる所󠄃ところなり。 26 汝なんぢらの中うちにては然しからず、汝なんぢらの中うちに大おほいならんと思おもふ者ものは、汝なんぢらの役者えきしゃとなり、 27 首かしらたらんと思おもふ者ものは汝なんぢらの僕しもべとなるべし。 28 斯かくのごとく人ひとの子この來きたれるも事つかへらるる爲ためにあらず、反かへつて事つかふることをなし、又󠄂またおほくの人ひとの贖償あがなひとして己おのが生命いのちを與あたへん爲ためなり』
 42㌻ 

29 彼かれらエリコを出いづるとき、大おほいなる群衆ぐんじゅうイエスに從したがへり。 30 視みよ、二人ふたりの盲人めしひ、路みちの傍かたはらに坐ざしをりしが、イエスの過󠄃すぎ給たまふことを聞きき、叫さけびて言いふ『主しゅよ、ダビデの子こよ、我われらを憫あはれみたまへ』 31 群衆ぐんじゅうかれらを禁いましめて默もださしめんと爲したれど、愈󠄃々いよいよ叫さけびて言いふ『主しゅよ、ダビデの子こよ、我われらを憫あはれみ給たまへ』〘31㌻〙 32 イエス立たち止どまり、彼かれらを呼よびて言いひ給たまふ『わが汝なんぢらに何なにを爲なさんことを望󠄇のぞむか』 33 彼かれら言いふ『主しゅよ、目めの開ひらかれんことなり』 34 イエスいたく憫あはれみて彼かれらの目めに觸さはり給たまへば、直たゞちに物もの見みることを得えて、イエスに從したがへり。

第21章

1 彼かれらエルサレムに近󠄃ちかづき、オリブ山やまの邊󠄎ほとりなるベテパゲに到いたりし時とき、イエス二人ふたりの弟子でしを遣󠄃つかはさんとして言いひ給たまふ、 2 『向むかひの村むらにゆけ、やがて繋つなぎたる驢馬ろばのその子ことともに在あるを見みん、解ときて我われに牽󠄁ひききたれ。 3 誰たれかもし汝なんぢらに何なにとか言いはば「主しゅの用ようなり」と言いへ、さらば直たゞちに之これを遣󠄃つかはさん』 4 此この事ことの起󠄃おこりしは預言者よげんしゃによりて云いはれたる言ことばの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり。曰いはく、 5 『シオンの娘むすめに吿つげよ、 「視みよ、汝なんぢの王わう、なんぢに來きたり給たまふ。 柔和にうわにして驢馬ろばに乘のり、 軛くびきを負󠄅おふ驢馬ろばの子こに乘のりて」』 6 弟子でしたち往󠄃ゆきて、イエスの命めいじ給たまへる如ごとくして、 7 驢馬ろばとその子ことを牽󠄁ひききたり、己おのが衣ころもをその上うへにおきたれば、イエス之これに乘のりたまふ。 8 群衆ぐんじゅうの多おほくはその衣ころもを途󠄃みちにしき、或ある者ものは樹きの枝えだを伐きりて途󠄃みちに敷󠄃しく。 9 かつ前󠄃まへにゆき後あとにしたがふ群衆ぐんじゅうよばはりて言いふ、『ダビデの子こに[*]ホサナ、讃ほむべきかな、主しゅの御名みなによりて來きたる者もの。いと高たかき處ところにてホサナ』[*「救あれ」との義なり。] 10 遂󠄅つひにエルサレムに入いり給たまへば、都みやこ擧こぞりて騷さわぎ立たちて言いふ『これは誰たれなるぞ』 11 群衆ぐんじゅういふ『これガリラヤのナザレより出いでたる預言者よげんしゃイエスなり』

12 イエス宮みやに入いり、その內うちなる凡すべての賣買うりかひする者ものを逐󠄃おひいだし、兩替りゃうがへする者ものの臺だい・鴿はとを賣うる者ものの腰󠄃掛こしかけを倒たふして言いひ給たまふ、
 43㌻ 
13 『「わが家いへは祈いのりの家いへと稱󠄄となへらるべし」と錄しるされたるに汝なんぢらは之これを强盜がうたうの巢すとなす』 14 宮みやにて盲人めしひ・跛者あしなへども御許みもとに來きたりたれば、之これを醫いやしたまへり。 15 祭司長さいしちゃう・學者がくしゃらイエスの爲なし給たまへる不思議ふしぎなる業わざと宮みやにて呼よばはり『ダビデの子こにホサナ』と言いひをる子こ等どもとを見み、憤いきどほりて、 16 イエスに言いふ『なんぢ彼かれらの言いふところを聞きくか』イエス言いひ給たまふ『然しかり「嬰兒みどりご・乳󠄃兒ちのみごの口くちに讃美さんびを備そなへ給たまへり」とあるを未いまだ讀よまぬか』 17 遂󠄅つひに彼かれらを離はなれ、都みやこを出いでてベタニヤにゆき、其處そこに宿やどり給たまふ。

18 朝󠄃あさ早はやく、都みやこにかへる時ときイエス飢󠄄うゑたまふ。 19 路みちの傍かたへなる一ひともとの無花果いちぢくの樹きを見みて、その下もとに到いたり給たまひしに、葉はのほかに何なにをも見出みいださず、之これに對むかひて『今いまより後のちいつまでも果みを結むすばざれ』と言いひ給たまへば、無花果いちぢくの樹きたちどころに枯かれたり。〘32㌻〙 20 弟子でしたち之これを見み、怪あやしみて言いふ、『無花果いちぢくの樹きの斯かく立刻󠄂たちどころに枯かれたるは何なんぞや』 21 イエス答こたへて言いひ給たまふ『まことに汝なんぢらに吿つぐ、もし汝なんぢら信仰しんかうありて疑うたがはずば、啻たゞに此この無花果いちぢくの樹きにありし如ごときことを爲なし得うるのみならず、此この山やまに「移うつりて海うみに入いれ」と言いふとも亦また成󠄃なるべし。 22 かつ祈いのりのとき何なににても信しんじて求もとめば、ことごとく得うべし』

23 宮みやに到いたりて敎をしへ給たまふとき、祭司長さいしちゃう・民たみの長老ちゃうらうら御許みもとに來きたりて言いふ『何なにの權威󠄂けんゐをもて此これ等らの事ことをなすか、誰たがこの權威󠄂けんゐを授さづけしか』 24 イエス答こたへて言いひたまふ『我われも一言ひとことなんぢらに問とはん、もし夫それを吿つげなば、我われもまた何なにの權威󠄂けんゐをもて此これ等らのことを爲なすかを吿つげん。 25 ヨハネのバプテスマは何處いづこよりぞ、天てんよりか、人ひとよりか』かれら互たがひに論ろんじて言いふ『もし天てんよりと言いはば「何なに故ゆゑかれを信しんぜざりし」と言いはん。 26 もし人ひとよりと言いはんか、人ひとみなヨハネを預言者よげんしゃと認󠄃みとむれば、我われらは群衆ぐんじゅうを恐おそる』
 44㌻ 
27 遂󠄅つひに答こたへて『知しらず』と言いへり。イエスもまた言いひたまふ『我われも何なにの權威󠄂けんゐをもて此これ等らのことを爲なすか汝なんぢらに吿つげじ。 28 なんぢら如何いかに思おもふか、或ある人ひとふたりの子こありしが、その兄あににゆきて言いふ「子こよ、今日けふ、葡萄園ぶだうぞのに往󠄃ゆきて働はたらけ」 29 答こたへて「主しゅよ、我われゆかん」と言いひて終󠄃つひに往󠄃ゆかず。 30 また弟おとうとにゆきて同おなじやうに言いひしに、答こたへて「往󠄃ゆかじ」と言いひたれど、後のちくいて往󠄃ゆきたり。 31 この二人ふたりのうち孰いづれか父󠄃ちちの意こゝろを爲なしし』彼かれらいふ『後のちの者ものなり』イエス言いひ給たまふ『まことに汝なんぢらに吿つぐ、取税人しゅぜいにんと遊󠄃女あそびめとは汝なんぢらに先さきだちて神かみの國くにに入いるなり。 32 それヨハネ義ぎの道󠄃みちをもて來きたりしに、汝なんぢらは彼かれを信しんぜず、取税人しゅぜいにんと遊󠄃女あそびめとは信しんじたり。然しかるに汝なんぢらは之これを見みし後のちもなほ悔改くいあらためずして信しんぜざりき。

33 また一ひとつの譬たとへを聽きけ、ある家主いへあるじ、葡萄園ぶだうぞのをつくりて籬󠄂まがきをめぐらし、中なかに酒槽さかぶねを掘ほり、櫓やぐらを建󠄄たて、農夫のうふどもに貸かして遠󠄄とほく旅󠄃立たびだちせり。 34 果期みのりどきちかづきたれば、その果みを受うけ取とらんとて僕しもべらを農夫のうふどもの許もとに遣󠄃つかはししに、 35 農夫のうふどもその僕しもべらを執とらへて一人ひとりを打うちたたき、一人ひとりをころし、一人ひとりを石いしにて擊うてり。 36 復またほかの僕しもべらを前󠄃まへよりも多おほく遣󠄃つかはししに、之これをも同おなじやうに遇󠄃あしらへり。 37 「わが子こは敬うやまふならん」と言いひて、遂󠄅つひにその子こを遣󠄃つかはししに、 38 農夫のうふども此この子こを見みて互たがひに言いふ「これは世嗣よつぎなり、いざ殺ころして、その嗣業しげふを取とらん」 39 斯かくて之これをとらへ葡萄園ぶだうぞのの外そとに逐󠄃おひ出いだして殺ころせり。〘33㌻〙 40 さらば葡萄園ぶだうぞのの主人あるじきたる時とき、この農夫のうふどもに何なにを爲なさんか』 41 かれら言いふ『その惡人あくにんどもを飽󠄄あくまで滅ほろぼし、果期みのりどきにおよびて果みを納󠄃をさむる他ほかの農夫のうふどもに葡萄園ぶだうぞのを貸かし與あたふべし』 42 イエス言いひたまふ『聖󠄃書せいしょに、 「造󠄃家者いへつくりらの棄すてたる石いしは、 これぞ隅すみの首石おやいしとなれる、 これ主しゅによりて成󠄃なれるにて、 我われらの目めには奇くすしきなり」とあるを汝なんぢら未いまだ讀よまぬか。
 45㌻ 
43 この故ゆゑに汝なんぢらに吿つぐ、汝なんぢらは神かみの國くにをとられ、其その果みを結むすぶ國人くにびとは、之これを與あたへらるべし。 44 この石いしの上うへに倒たふるる者ものはくだけ、又󠄂またこの石いし、人ひとのうへに倒たふるれば、其その人ひとを微塵みじんとせん』 45 祭司長さいしちゃう・パリサイ人びとら、イエスの譬たとへをきき、己おのれらを指さして語かたり給たまへるを悟さとり、 46 イエスを執とらへんと思おもへど群衆ぐんじゅうを恐おそれたり、群衆ぐんじゅうかれを預言者よげんしゃとするに因よる。

第22章

1 イエスまた譬たとへをもて答こたへて言いひ給たまふ 2 『天國てんこくは己おのが子このために婚筵こんえんを設まうくる王わうのごとし。 3 婚筵こんえんに招まねきおきたる人々ひとびとを迎󠄃むかへんとて僕しもべどもを遺󠄃つかはししに、來きたるを肯うけがはず。 4 復またほかの僕しもべどもを遣󠄃つかはすとて言いふ「招まねきたる人々ひとびとに吿つげよ、視みよ、晝餐󠄃ひるげは旣󠄁すでに備そなはりたり。我わが牛うしも肥こえたる畜けものも屠󠄃ほふられて、凡すべての物もの備そなはりたれば、婚筵こんえんに來きたれと」 5 然しかるに人々ひとびと顧󠄃かへりみずして、或ある者ものは己おのが畑はたに、或ある者ものは己おのが商賣あきなひに往󠄃ゆけり。 6 また他ほかの者ものは僕しもべどもを執とらへて、辱はづかしめ、かつ殺ころしたれば、 7 王わう、怒いかりて軍勢ぐんぜいを遣󠄃つかはし、かの兇行者きゃうかうしゃを滅ほろぼして、其その町まちを燒やきたり。 8 斯かくて僕しもべどもに言いふ「婚筵こんえんは旣󠄁すでに備そなはりたれど、招まねきたる者ものどもは相應ふさはしからず。 9 然されば汝なんぢら街ちまたに往󠄃ゆきて遇󠄃あふほどの者ものを婚筵こんえんに招まねけ」 10 僕しもべども途󠄃みちに出いでて善よきも惡あしきも遇󠄃あふほどの者ものをみな集あつめたれば、婚禮こんれいの席せきは客きゃくにて滿みてり。 11 王わう、客きゃくを見みんとて入いり來きたり、一人ひとりの禮服󠄃れいふくを著つけぬ者ものあるを見みて、 12 之これに言いふ「友ともよ、如何いかなれば禮服󠄃れいふくを著つけずして此處ここに入いりたるか」かれ默もだしゐたり。 13 ここに王わう、侍者じしゃらに言いふ「その手て足あしを縛󠄃しばりて外そとの暗󠄃黑くらきに投なげいだせ、其處そこにて哀哭なげき・切齒はがみすることあらん」 14 それ招まねかるる者ものは多おほかれど、選󠄄えらばるる者ものは少すくなし』

15 爰こゝにパリサイ人びとら出いでて如何いかにしてかイエスを言ことばの羂わなに係かけんと相あひ議はかり、 16 その弟子でしらをヘロデ黨たうの者ものどもと共ともに遺󠄃のこして言いはしむ『師しよ、我われらは知しる、なんぢは眞󠄃まことにして、眞󠄃まことをもて神かみの道󠄃みちを敎をしへ、かつ誰たれをも憚はゞかりたまふ事ことなし、人ひとの外貌うはべを見み給たまはぬ故ゆゑなり。〘34㌻〙
 46㌻ 
17 されば我われらに吿つげたまへ、貢みつぎをカイザルに納󠄃をさむるは可よきか、惡あしきか、如何いかに思おもひたまふ』 18 イエスその邪󠄅曲よこしまなるを知しりて言いひたまふ『僞善者ぎぜんしゃよ、なんぞ我われを試こゝろむるか。 19 貢みつぎの金かねを我われに見みせよ』彼かれらデナリ一ひとつを持もち來きたる。 20 イエス言いひ給たまふ『これは誰たれの像󠄃かたち、たれの號しるしなるか』 21 彼かれら言いふ『カイザルのなり』ここに彼かれらに言いひ給たまふ『さらばカイザルの物ものはカイザルに、神かみの物ものは神かみに納󠄃をさめよ』 22 彼かれら之これを聞ききて怪あやしみ、イエスを離はなれて去さり往󠄃ゆけり。

23 復活よみがへりなしといふサドカイ人びとら、その日ひ、みもとに來きたり問とひて言いふ 24 『師しよ、モーセは「人ひともし子こなくして死しなば、其その兄弟きゃうだいかれの妻つまを娶めとりて兄弟きゃうだいのために世嗣よつぎを擧あぐべし」と云いへり。 25 我われらの中うちに七人しちにんの兄弟きゃうだいありしが、兄あにめとりて死しに、世嗣よつぎなくして其その妻つまを弟おとうとに遺󠄃のこしたり。 26 その二に、その三さんより、その七しちまで皆みなかくの如ごとく爲なし、 27 最後いやはてにその女をんなも死しにたり。 28 されば復活よみがへりの時ときその女をんなは七人しちにんのうち誰たれの妻つまたるべきか、彼かれら皆みなこれを妻つまとしたればなり』 29 イエス答こたへて言いひ給たまふ『なんぢら聖󠄃書せいしょをも神かみの能力ちからをも知しらぬ故ゆゑに誤󠄄あやまれり。 30 それ人ひとよみがへりの時ときは娶めとらず、嫁とつがず、天てんに在ある御使󠄃みつかひたちの如ごとし。 31 死人しにんの復活よみがへりに就つきては神かみなんぢらに吿つげて、 32 「我われはアブラハムの神かみ、イサクの神かみ、ヤコブの神かみなり」と言いひ給たまへることを未いまだ讀よまぬか。神かみは死しにたる者ものの神かみにあらず、生いける者ものの神かみなり』 33 群衆ぐんじゅうこれを聞ききて其その敎をしへに驚をどろけり。

34 パリサイ人びとら、イエスのサドカイ人びとらを默もださしめ給たまひしことを聞ききて相あひ集あつまり、 35 その中うちなる一人ひとりの敎法師けうはふし、イエスを試こゝろむる爲ために問とふ
 47㌻ 
36 『師しよ、律法おきてのうち孰いづれの誡命いましめが大おほいなる』 37 イエス言いひ給たまふ『「なんぢ心こゝろを盡つくし、精神せいしんを盡つくし、思おもひを盡つくして主しゅなる汝なんぢの神かみを愛あいすべし」 38 これは大おほいにして第一だいいちの誡命いましめなり。 39 第二だいにもまた之これにひとし「おのれの如ごとく、なんぢの隣となりを愛あいすべし」 40 律法おきて全󠄃體ぜんたいと預言者よげんしゃとは此この二ふたつの誡命いましめに據よるなり』

41 パリサイ人びとらの集あつまりたる時とき、イエス彼かれらに問とひて言いひ給たまふ 42 『なんぢらはキリストに就つきて如何いかに思おもふか、誰たれの子こなるか』かれら言いふ『ダビデの子こなり』 43 イエス言いひ給たまふ『さらばダビデ御靈みたまに感かんじて何なに故ゆゑかれを主しゅと稱󠄄となふるか。曰いはく 44 「主しゅ、わが主しゅに言いひ給たまふ、 われ汝なんぢの敵てきを汝なんぢの足あしの下したに置おくまでは、 我わが右みぎに坐ざせよ」 45 斯かくダビデ彼かれを主しゅと稱󠄄となふれば、爭いかでその子こならんや』〘35㌻〙 46 誰たれも一言ひとことだに答こたふること能あたはず、その日ひより敢あへて復またイエスに問とふ者ものなかりき。

第23章

1 爰こゝにイエス群衆ぐんじゅうと弟子でしたちとに語かたりて言いひ給たまふ、 2 『學者がくしゃとパリサイ人びととはモーセの座ざを占しむ。 3 されば凡すべてその言いふ所󠄃ところは、守まもりて行おこなへ、されど、その所󠄃作しわざには效ならふな、彼かれらは言いふのみにて行おこなはぬなり。 4 また重おもき荷にを括くゝりて人ひとの肩󠄃かたにのせ、己おのれは指ゆびにて之これを動うごかさんともせず。 5 凡すべてその所󠄃作しわざは人ひとに見みられん爲ためにするなり。即すなはちその經札きゃうふだを幅はゞひろくし、衣ころもの總󠄂ふさを大おほきくし、 6 饗宴ふるまひの上席じゃうせき、會堂くわいだうの上座じゃうざ、 7 市場いちばにての敬禮けいれい、また人ひとにラビと呼よばるることを好このむ。 8 されど汝なんぢらはラビの稱󠄄となへを受うくな、汝なんぢらの師しは一人ひとりにして、汝なんぢ等らはみな兄弟きゃうだいなり。 9 地ちにある者ものを父󠄃ちちと呼よぶな、汝なんぢらの父󠄃ちちは一人ひとり、すなはち天てんに在います者ものなり。 10 また導󠄃師だうしの稱󠄄となへを受うくな、汝なんぢらの導󠄃師だうしはひとり、即すなはちキリストなり。
 48㌻ 
11 汝なんぢ等らのうち大おほいなる者ものは、汝なんぢらの役者えきしゃとならん。 12 凡おほよそおのれを高たかうする者ものは卑ひくうせられ、己おのれを卑ひくうする者ものは高たかうせらるるなり。

13 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイ人びとよ、なんぢらは人ひとの前󠄃まへに天國てんこくを閉とざして、自みづから入いらず、入いらんとする人ひとの入いるをも許ゆるさぬなり。 14 [なし][*][*異本にマルコ傳十二章一四ルカ傳二十章四七とほぼ同じ句あり。] 15 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイ人びとよ、汝なんぢらは一人ひとりの改宗者かいしゅうしゃを得えんために海うみ陸をかを經へめぐり、旣󠄁すでに得うれば、之これを己おのれに倍ばいしたる[*]ゲヘナの子ことなすなり。[*譯して「地獄の子」とす。]

16 禍害󠄅わざはひなるかな、盲目めしひなる手引てびきよ、なんぢらは言いふ「人ひともし宮みやを指さして誓ちかはば事ことなし、宮みやの黃金こがねを指さして誓ちかはば果はたさざるべからず」と。 17 愚おろかにして盲目めしひなる者ものよ、黃金こがねと黃金こがねを聖󠄃せいならしむる宮みやとは孰いづれか貴たふとき。 18 なんぢら又󠄂またいふ「人ひともし祭壇さいだんを指さして誓ちかはば事ことなし、其その上うへの供物そなへものを指さして誓ちかはば果はたさざるべからず」と。 19 盲目めしひなる者ものよ、供物そなへものと供物そなへものを聖󠄃せいならしむる祭壇さいだんとは孰いづれか貴たふとき。 20 されば祭壇さいだんを指さして誓ちかふ者ものは、祭壇さいだんとその上うへの凡すべての物ものとを指さして誓ちかふなり。 21 宮みやを指さして誓ちかふ者ものは、宮みやとその內うちに住󠄃すみたまふ者ものとを指さして誓ちかふなり。 22 また天てんを指さして誓ちかふ者ものは、神かみの御座みくらとその上うへに坐ざしたまふ者ものとを指さして誓ちかふなり。

23 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイ人びとよ、汝なんぢらは薄󠄄荷はくか・蒔蘿いのんど・クミンの十分󠄃じふぶんの一いちを納󠄃をさめて、律法おきての中うちにて尤もっとも重おもき公󠄃平󠄃こうへいと憐憫あはれみと忠信ちうしんとを等閑なほざりにす。然されど之これは行おこなふべきものなり、而しかして彼かれもまた等閑なほざりにすべきものならず。 24 盲目めしひなる手引てびきよ、汝なんぢらは蚋ぶよを漉こし出いだして駱駝らくだを呑のむなり。〘36㌻〙

25 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイ人びとよ、汝なんぢらは酒杯さかづきと皿さらとの外そとを潔󠄄きよくす、されど內うちは貪慾どんよくと放縱はうじゅうとにて滿みつるなり。
 49㌻ 
26 盲目めしひなるパリサイ人びとよ、汝なんぢまづ酒杯さかづきの內うちを潔󠄄きよめよ、然さらば外そとも潔󠄄きよくなるべし。

27 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイ人びとよ、汝なんぢらは白しろく塗ぬりたる墓はかに似にたり、外そとは美うつくしく見みゆれども內うちは死人しにんの骨ほねとさまざまの穢けがれとにて滿みつ。 28 斯かくのごとく汝なんぢらも外そとは人ひとに正たゞしく見みゆれども、內うちは僞善ぎぜんと不法ふほふとにて滿みつるなり。

29 禍害󠄅わざはひなるかな、僞善ぎぜんなる學者がくしゃ、パリサイ人びとよ、汝なんぢらは預言者よげんしゃの墓はかをたて、義人ぎじんの碑ひを飾󠄃かざりて言いふ、 30 「我われらもし先祖せんぞの時ときにありしならば、預言者よげんしゃの血ちを流ながすことに與くみせざりしものを」と。 31 かく汝なんぢらは預言者よげんしゃを殺ころしし者ものの子こたるを自みづから證あかしす。 32 なんぢら己おのが先祖せんぞの桝目ますめを充みたせ。 33 蛇へびよ、蝮まむしの裔すゑよ、なんぢら爭いかでゲヘナの刑罰けいばつを避󠄃さけ得えんや。 34 この故ゆゑに視みよ、我われなんぢらに預言者よげんしゃ・智者ちしゃ・學者がくしゃらを遣󠄃つかはさんに、其その中うちの或ある者ものを殺ころし、十字架じふじかにつけ、或ある者ものを汝なんぢらの會堂くわいだうにて鞭むちうち、町まちより町まちに逐󠄃おひ苦くるしめん。 35 之これによりて義人ぎじんアベルの血ちより、聖󠄃所󠄃せいじょと祭壇さいだんとの間あひだにて汝なんぢらが殺ころししバラキヤの子こザカリヤの血ちに至いたるまで、地上ちじゃうにて流ながしたる正たゞしき血ちは、皆みななんぢらに報むくい來きたらん。 36 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、これらの事ことはみな今いまの代よに報むくい來きたるべし。

37 ああエルサレム、エルサレム、預言者よげんしゃたちを殺ころし、遣󠄃つかはされたる人々ひとびとを石いしにて擊うつ者ものよ、牝鷄めんどりのその雛ひなを翼󠄅つばさの下したに集あつむるごとく、我われなんぢの子こどもを集あつめんと爲せしこと幾度いくたびぞや、然されど汝なんぢらは好このまざりき。 38 視みよ、汝なんぢらの家いへは廢すてられて汝なんぢらに遺󠄃のこらん。 39 われ汝なんぢらに吿つぐ「讃ほむべきかな、主しゅの名なによりて來きたる者もの」と、汝なんぢ等らのいふ時ときの至いたるまでは、今いまより我われを見みざるべし』
 50㌻ 

第24章

1 イエス宮みやを出いでてゆき給たまふとき、弟子でしたち宮みやの建󠄄造󠄃物たてものを示しめさんとて御許みもとに來きたりしに、 2 答こたへて言いひ給たまふ『なんぢら此この一切すべての物ものを見みぬか。誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、此處ここに一ひとつの石いしも崩󠄃くづされずしては石いしの上うへに遺󠄃のこらじ』

3 オリブ山やまに坐ざし給たまひしとき、弟子でしたち窃ひそかに御許みもとに來きたりて言いふ『われらに吿つげ給たまへ、これらの事ことは何時いつあるか、又󠄂またなんぢの來きたり給たまふと世よの終󠄃をはりとには、何なにの兆󠄃しるしあるか』〘37㌻〙 4 イエス答こたへて言いひ給たまふ『なんぢら人ひとに惑まどはされぬやうに心こゝろせよ。 5 多おほくの者ものわが名なを冐をかし來きたり「我われはキリストなり」と言いひて多おほくの人ひとを惑まどはさん。 6 又󠄂またなんぢら戰爭いくさと戰爭いくさの噂󠄄うはさとを聞きかん、愼つゝしみて懼おそるな。斯かゝる事ことはあるべきなり、然されど未いまだ終󠄃をはりにはあらず。 7 即すなはち「民たみは民たみに、國くには國くにに逆󠄃さからひて起󠄃たたん」また處々ところどころに饑󠄃饉ききんと地震ぢしんとあらん、 8 此これ等らはみな產うみの苦難くるしみの始はじめなり。 9 そのとき人々ひとびとなんぢらを患難なやみに付わたし、また殺ころさん、汝なんぢ等らわが名なの爲ために、もろもろの國人くにびとに憎にくまれん。 10 その時ときおほくの人ひとつまづき、且かつたがひに付わたし、互たがひに憎にくまん。 11 多おほくの僞にせ預言者よげんしゃおこりて多おほくの人ひとを惑まどはさん。 12 また不法ふほふの增ますによりて多おほくの人ひとの愛あい、冷ひやゝかにならん。 13 然されど終󠄃をはりまで耐たへしのぶ者ものは救すくはるべし。 14 御國みくにのこの福音󠄃ふくいんは、もろもろの國人くにびとに證あかしをなさんため全󠄃世界ぜんせかいに宣傳󠄂のべつたへられん、而しかして後のち、終󠄃をはりは至いたるべし。

15 なんぢら預言者よげんしゃダニエルによりて言いはれたる「荒あらす惡にくむべき者もの」の聖󠄃せいなる處ところに立たつを見みば(讀よむ者ものさとれ) 16 その時ときユダヤに居をる者ものどもは山やまに遁󠄅のがれよ。 17 屋やの上うへに居をる者ものはその家いへの物ものを取とり出いださんとして下くだるな。 18 畑はたにをる者ものは上衣うはぎを取とらんとて歸かへるな。 19 その日ひには孕みごもりたる者ものと乳󠄃ちゝを哺のまする者ものとは禍害󠄅わざはひなるかな。 20 汝なんぢらの遁󠄅にぐることの冬󠄃ふゆまたは安息あんそく日にちに起󠄃おこらぬように祈いのれ。
 51㌻ 
21 そのとき大おほいなる患難なやみあらん、世よの創はじめより今いまに至いたるまで斯かゝる患難なやみはなく、また後のちにも無なからん。 22 その日ひもし少すくなくせられずば、一人ひとりだに救すくはるる者ものなからん、されど選󠄄民せんみんの爲ためにその日ひ少すくなくせらるべし。 23 その時ときあるひは「視みよ、キリスト此處ここにあり」或あるひは「此處ここにあり」と言いふ者ものありとも信しんずな。 24 僞にせキリスト・僞にせ預言者よげんしゃおこりて大おほいなる徴しるしと不思議ふしぎとを現あらはし、爲なし得うべくば選󠄄民せんみんをも惑まどはさんと爲するなり。 25 視みよ、預あらかじめ之これを汝なんぢらに吿つげおくなり。 26 されば人ひともし汝なんぢらに「視みよ、彼かれは荒野あらのにあり」といふとも出いで往󠄃ゆくな「視みよ、彼かれは部屋へやにあり」と言いふとも信しんずな。 27 電光いなづまの東ひがしより出いでて西にしにまで閃ひらめきわたる如ごとく、人ひとの子この來きたるも亦また然しからん。 28 それ死骸しがいのある處ところには[*]鷲わしあつまらん。[*或は「兀鷹」と譯す。]

29 これらの日ひの患難なやみののち直たゞちに日ひは暗󠄃くらく、月󠄃つきは光ひかりを發はなたず、星ほしは空󠄃そらより隕おち、天てんの萬象ばんしゃう、ふるひ動うごかん。 30 そのとき人ひとの子この兆󠄃しるし、天てんに現あらはれん。そのとき地上ちじゃうの諸族しょぞくみな嘆なげき、かつ人ひとの子この能力ちからと大おほいなる榮光えいくわうとをもて天てんの雲くもに乘のり來きたるを見みん。 31 また彼かれは使󠄃つかひたちを大おほいなるラッパの聲こゑとともに遣󠄃つかはさん。使󠄃つかひたちは天てんの此この極はてより彼かの極はてまで四方しはうより選󠄄民せんみんを集あつめん。〘38㌻〙

32 無花果いちぢくの樹きよりの譬たとへをまなべ、その枝えだすでに柔やはらかくなりて葉は芽めぐめば、夏なつの近󠄃ちかきを知しる。 33 斯かくのごとく汝なんぢらも此これ等らのすべての事ことを見みば[*]人ひとの子こすでに近󠄃ちかづきて門邊󠄎かどべに到いたるを知しれ。[*或は「時」と譯す。] 34 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、これらの事ことことごとく成󠄃なるまで、今いまの代よは過󠄃すぎ往󠄃ゆくまじ。 35 天てん地ちは過󠄃すぎゆかん、然されど我わが言ことばは過󠄃すぎ往󠄃ゆくことなし。 36 その日ひその時ときを知しる者ものなし、天てんの使󠄃つかひたちも知しらず[*]子こも知しらず、ただ父󠄃ちちのみ知しり給たまふ。[*異本「子も知らず」の句なし。]
 52㌻ 
37 ノアの時ときのごとく人ひとの子この來きたるも然しかあるべし。 38 曾かつて洪水こうずゐの前󠄃まへノア方舟はこぶねに入いる日ひまでは、人々ひとびと飮のみ食󠄃くひ、娶めとり嫁とつがせなどし、 39 洪水こうずゐの來きたりて悉ことごとく滅ほろぼすまでは知しらざりき、人ひとの子この來きたるも然しかあるべし。 40 その時ときふたりの男をとこ、畑はたにをらんに、一人ひとりは取とられ、一人ひとりは遺󠄃のこされん。 41 二人ふたりの女をんな、磨󠄃うす碾ひきをらんに、一人ひとりは取とられ、一人ひとりは遺󠄃のこされん。 42 されば目めを覺さましをれ、汝なんぢらの主しゅのきたるは、何いづれの日ひなるかを知しらざればなり。 43 汝なんぢ等らこれを知しれ、家主いへあるじもし盜人ぬすびといづれの時とききたるかを知しらば、目めをさまし居ゐて、その家いへを穿󠄂うがたすまじ。 44 この故ゆゑに汝なんぢらも備そなへをれ、人ひとの子こは思おもはぬ時ときに來きたればなり。 45 主人しゅじんが時ときに及およびて食󠄃物しょくもつを與あたへさする爲ために、家いへの者もののうへに立たてたる忠實まめやかにして慧󠄄さとき僕しもべは誰たれなるか。 46 主人しゅじんのきたる時ときかく爲なし居をるを見みらるる僕しもべは幸福さいはひなり。 47 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、主人しゅじんすべての所󠄃有󠄃もちものを彼かれに掌つかさどらすべし。 48 若もしその僕しもべ、惡あしくして心こゝろのうちに主人しゅじんは遲󠄃おそしと思おもひて、 49 その同輩どうはいを扑たゝきはじめ、酒徒さけのみらと飮食󠄃のみくひを共ともにせば、 50 その僕しもべの主人しゅじんおもはぬ日ひしらぬ時ときに來きたりて、 51 之これを[*]烈はげしく笞しもとうち、その報むくいを僞善者ぎぜんしゃと同おなじうせん。其處そこにて哀哭なげき・切齒はがみすることあらん。[*或は「挽き斬り」と譯す。]

第25章

1 このとき天國てんこくは燈火ともしびを執とりて、新郎はなむこを迎󠄃むかへに出いづる十じふ人にんの處女をとめに比なずらふべし。 2 その中うちの五ご人にんは愚おろかにして五ご人にんは慧󠄄さとし。 3 愚おろかなる者ものは燈火ともしびをとりて油あぶらを携たづさへず、 4 慧󠄄さときものは油あぶらを器うつはに入いれて燈火ともしびとともに携たづさへたり。 5 新郎はなむこ、遲󠄃おそかりしかば、皆みなまどろみて寢いぬ。 6 夜半󠄃よなかに「やよ、新郎はなむこなるぞ、出いで迎󠄃むかへよ」と呼よばはる聲こゑす。 7 ここに處女をとめみな起󠄃おきてその燈火ともしびを整とゝのへたるに、 8 愚おろかなる者ものは慧󠄄さときものに言いふ「なんぢらの油あぶらを分󠄃わけあたへよ、我われらの燈火ともしびきゆるなり」〘39㌻〙
 53㌻ 
9 慧󠄄さときもの答こたへて言いふ「恐おそらくは我われらと汝なんぢらとに足たるまじ、寧むしろ賣うるものに往󠄃ゆきて己おのがために買かへ」 10 彼かれら買かはんとて往󠄃ゆきたる間まに新郎はなむこきたりたれば、備そなへをりし者ものどもは彼かれとともに婚筵こんえんにいり、而しかして門もんは閉とざされたり。 11 その後のちかの他ほかの處女をとめども來きたりて「主しゅよ、主しゅよ、われらの爲ためにひらき給たまへ」と言いひしに、 12 答こたへて「まことに汝なんぢらに吿つぐ、我われは汝なんぢらを知しらず」と言いへり。 13 されば目めを覺さましをれ、汝なんぢらは其その日ひその時ときを知しらざるなり。

14 また或ある人ひととほく旅󠄃立たびだちせんとして其その僕しもべどもを呼よび、之これに己おのが所󠄃有󠄃もちものを預あづくるが如ごとし。 15 各人おのおのの能力ちからに應おうじて或ある者ものには五ごタラント、或ある者ものには二にタラント、或ある者ものには一いちタラントを與あたへ置おきて旅󠄃立たびだちせり。 16 五ごタラントを受うけし者ものは、直たゞちに往󠄃ゆき、之これをはたらかせて他ほかに五ごタラントを贏󠄅まうけ、 17 二にタラントを受うけし者ものも同おなじく他ほかに二にタラントを贏󠄅まうく。 18 然しかるに一いちタラントを受うけし者ものは、往󠄃ゆきて地ちを掘ほり、その主人しゅじんの銀かねをかくし置おけり。 19 久ひさしうして後のちこの僕しもべどもの主人しゅじんきたりて、彼かれらと計算けいさんしたるに、 20 五ごタラントを受うけし者ものは他ほかに五ごタラントを持もちきたりて言いふ「主しゅよ、なんぢ我われに五ごタラントを預あづけたりしが、視みよ、他ほかに五ごタラントを贏󠄅まうけたり」 21 主人しゅじんいふ「宜よいかな、善ぜんかつ忠ちゅうなる僕しもべ、なんぢは僅わづかなる物ものに忠ちゅうなりき。我われなんぢに多おほくの物ものを掌つかさどらせん、汝なんぢの主人しゅじんの勸󠄂喜よろこびに入いれ」 22 二にタラントを受うけし者ものも來きたりて言いふ「主しゅよ、なんぢ我われに二にタラントを預あづけたりしが、視みよ、他ほかに二にタラントを贏󠄅まうけたり」 23 主人しゅじんいふ「宜よいかな、善ぜんかつ忠ちゅうなる僕しもべ、なんぢは僅わづかなる物ものに忠ちゅうなりき。我われなんぢに多おほくの物ものを掌つかさどらせん、汝なんぢの主人しゅじんの勸󠄂喜よろこびにいれ」
 54㌻ 
24 また一いちタラントを受うけし者ものもきたりて言いふ「主しゅよ、我われはなんぢの嚴きびしき人ひとにて、播まかぬ處ところより刈かり、散ちらさぬ處ところより斂あつむることを知しるゆゑに、 25 懼おそれてゆき、汝なんぢのタラントを地ちに藏かくしおけり。視みよ、汝なんぢはなんぢの物ものを得えたり」 26 主人しゅじんこたへて言いふ「惡あしく、かつ惰おこたれる僕しもべ、わが播まかぬ處ところより刈かり、散ちらさぬ處ところより斂あつむることを知しるか。 27 さらば我わが銀かねを銀行ぎんかうにあづけ置おくべかりしなり、我われきたりて利子りしとともに我わが物ものをうけ取とりしものを。 28 然されば彼かれのタラントを取とりて十じふタラントを有󠄃もてる人ひとに與あたへよ。 29 すべて有󠄃もてる人ひとは、與あたへられて愈󠄃々いよいよ豐ゆたかならん。然されど有󠄃もたぬ者ものは、その有󠄃もてる物ものをも取とらるべし。 30 而しかして此この無む益えきなる僕しもべを外そとの暗󠄃黑くらきに逐󠄃おひいだせ、其處そこにて哀哭なげき・切齒はがみすることあらん」〘40㌻〙

31 人ひとの子こその榮光えいくわうをもて、もろもろの御使󠄃みつかひを率󠄃ひきゐきたる時とき、その榮光えいくわうの座位くらゐに坐ざせん。 32 斯かくて、その前󠄃まへにもろもろの國人くにびとあつめられん、之これを別わかつこと牧羊者ひつじかいが羊ひつじと山羊やぎとを別わかつ如ごとくして、 33 羊ひつじをその右みぎに、山羊やぎをその左ひだりにおかん。 34 爰こゝに王わうその右みぎにをる者ものどもに言いはん「わが父󠄃ちちに祝しくせられたる者ものよ、來きたりて世よの創はじめより汝なんぢ等らのために備そなへられたる國くにを嗣つげ。 35 なんぢら我わが飢󠄄うゑしときに食󠄃くらはせ、渇かわきしときに飮のませ、旅󠄃人たびびとなりし時ときに宿やどらせ、 36 裸はだかなりしときに衣きせ、病やみしときに訪とぶらひ、獄ひとやに在ありしときに來きたりたればなり」 37 爰こゝに正たゞしき者ものら答こたへて言いはん「主しゅよ、何時いつなんぢの飢󠄄うゑしを見みて食󠄃くらはせ、渇かわきしを見みて飮のませし。 38 何時いつなんぢの旅󠄃人たびびとなりしを見みて宿やどらせ、裸はだかなりしを見みて衣きせし。 39 何時いつなんぢの病やみ、また獄ひとやに在ありしを見みて、汝なんぢにいたりし」 40 王わうこたへて言いはん「まことに汝なんぢらに吿つぐ、わが兄弟きゃうだいなる此これ等らのいと小ちひさき者ものの一人ひとりになしたるは、即すなはち我われに爲なしたるなり」 41 斯かくてまた左ひだりにをる者ものどもに言いはん「詛のろはれたる者ものよ、我われを離はなれて惡魔󠄃あくまとその使󠄃つかひらとのために備そなへられたる永遠󠄄とこしへの火ひに入いれ。
 55㌻ 
42 なんぢら我わが飢󠄄うゑしときに食󠄃くらはせず、渇かわきしときに飮のませず、 43 旅󠄃人たびびとなりしときに宿やどらせず、裸はだかなりしときに衣きせず、病やみまた獄ひとやにありしときに訪とぶらはざればなり」 44 爰こゝに彼かれらも答こたへて言いはん「主しゅよ、いつ汝なんぢの飢󠄄うゑ、或あるひは渇かわき、或あるひは旅󠄃人たびびと、あるひは裸はだか、あるひは病やみ、或あるひは獄ひとやに在ありしを見みて事つかへざりし」 45 ここに王わうこたへて言いはん「誠󠄃まことになんぢらに吿つぐ、此これ等らのいと小ちひさきものの一人ひとりに爲なさざりしは、卽すなはち我われになさざりしなり」と。 46 斯かくて、これらの者ものは去さりて永遠󠄄とこしへの刑罰けいばつにいり、正たゞしき者ものは永遠󠄄とこしへの生命いのちに入いらん』

第26章

1 イエスこれらの言ことをみな語かたりをへて、弟子でしたちに言いひ給たまふ 2 『なんぢらの知しるごとく、二日ふつかの後のちは過󠄃越すぎこしの祭まつりなり、人ひとの子こは十字架じふじかにつけられん爲ために賣うらるべし』 3 そのとき祭司長さいしちゃう・民たみの長老ちゃうらうら、カヤパといふ大だい祭司さいしの中庭󠄄なかにはに集あつまり、 4 詭計たばかりをもてイエスを捕とらへ、かつ殺ころさんと相あひ議はかりたれど、 5 又󠄂またいふ『まつりの間あひだは爲なすべからず、恐おそらくは民たみの中うちに亂らん起󠄃おこらん』

6 イエス、ベタニヤにて癩病人らいびゃうにんシモンの家いへに居給ゐたまふ時とき、 7 ある女をんな、石膏せきかうの壺つぼに入いりたる貴たふとき香にほひ油あぶらを持もちて、近󠄃ちかづき來きたり食󠄃事しょくじの席せきに就つき居給ゐたまふイエスの首かうべに注そゝげり。〘41㌻〙 8 弟子でしたち之これを見みて憤いきどほり言いふ『何なに故ゆゑかく濫みだりなる費つひえを爲なすか。 9 之これを多おほくの金かねに賣うりて、貧󠄃まづしき者ものに施ほどこすことを得えたりしものを』 10 イエス之これを知しりて言いひたまふ『何なんぞこの女をんなを惱なやますか、我われに善よき事ことをなせるなり。 11 貧󠄃まづしき者ものは常つねに汝なんぢらと偕ともにをれど、我われは常つねに偕ともに居をらず。 12 この女をんなの我わが體からだに香にほひ油あぶらを注そゝぎしは、わが葬はうむりの備そなへをなせるなり。
 56㌻ 
13 誠󠄃まことに汝なんぢらに吿つぐ、全󠄃世界ぜんせかい、何處いづこにてもこの福音󠄃ふくいんの宣傳󠄂のべつたへらるる處ところには、この女をんなのなしし事ことも、記念きねんとして語かたらるべし』

14 ここに十二じふに弟子でしの一人ひとりイスカリオテのユダといふ者もの、祭司長さいしちゃうらの許もとにゆきて言いふ 15 『なんぢらに彼かれを付わたさば、何なにほど我われに與あたへんとするか』彼かれら[*]銀ぎん三十さんじふを量はかり出いだせり。[*或は「銀三十と定めたり」と譯す。] 16 ユダこの時ときよりイエスを付わたさんと好よき機をりを窺うかゞふ。

17 除酵祭じょかうさいの初はじめの日ひ、弟子でしたちイエスに來きたりて言いふ『過󠄃越すぎこしの食󠄃しょくをなし給たまふために何處いづこに我われらが備そなふる事ことを望󠄇のぞみ給たまふか』 18 イエス言いひたまふ『都みやこにゆき、某それがしのもとに到いたりて「師しいふ、わが時とき近󠄃ちかづけり。われ弟子でしたちと共ともに過󠄃越すぎこしを汝なんぢの家いへにて守まもらん」と言いへ』 19 弟子でしたちイエスの命めいじ給たまひし如ごとくして、過󠄃越すぎこしの備そなへをなせり。 20 日ひ暮くれて十二じふに弟子でしとともに席せきに就つきて、 21 食󠄃しょくするとき言いひ給たまふ『まことに汝なんぢらに吿つぐ、汝なんぢらの中うちの一人ひとり、われを賣うらん』 22 弟子でしたち甚いたく憂うれひて、おのおの『主しゅよ、我われなるか』と言いひいでしに、 23 答こたへて言いひたまふ『我われとともに手てを鉢はちに入いるる者ものわれを賣うらん。 24 人ひとの子こは己おのれに就つきて錄しるされたる如ごとく逝󠄃ゆくなり。されど人ひとの子こを賣うる者ものは禍害󠄅わざはひなるかな、その人ひとは生うまれざりし方かたよかりしものを』 25 イエスを賣うるユダ答こたへて言いふ『ラビ、我われなるか』イエス言いひ給たまふ『なんぢの言いへる如ごとし』 26 彼かれら食󠄃しょくしをる時ときイエス、パンをとり、祝しくしてさき、弟子でしたちに與あたへて言いひ給たまふ『取とりて食󠄃くらへ、これは我わが體からだなり』 27 また酒杯さかづきをとりて謝󠄃しゃし、彼かれらに與あたへて言いひ給たまふ『なんぢら皆みなこの酒杯さかづきより飮のめ。 28 これは契󠄅約けいやくのわが血ちなり、多おほくの人ひとのために罪つみの赦ゆるしを得えさせんとて、流ながす所󠄃ところのものなり。 29 われ汝なんぢらに吿つぐ、わが父󠄃ちちの國くににて新あたらしきものを汝なんぢらと共ともに飮のむ日ひまでは、われ今いまより後のちこの葡萄ぶだうの果みより成󠄃なるものを飮のまじ』
 57㌻ 

30 彼かれら讃美さんびを歌うたひて後のちオリブ山やまに出いでゆく。

31 ここにイエス弟子でしたちに言いひ給たまふ『今宵󠄃こよひなんぢら皆みなわれに就つきて躓つまづかん「われ牧羊者ひつじかいを打うたん、さらば群むれの羊ひつじ散ちるべし」と錄しるされたるなり。 32 されど我われよみがへりて後のち、なんぢらに先さきだちてガリラヤに往󠄃ゆかん』〘42㌻〙 33 ペテロ答こたへて言いふ『假令たとひみな汝なんぢに就つきて躓つまづくとも我われはいつまでも躓つまづかじ』 34 イエス言いひ給たまふ『まことに汝なんぢに吿つぐ、今宵󠄃こよひ、鷄にはとり鳴なく前󠄃まへに、なんぢ三みたび我われを否いなむべし』 35 ペテロ言いふ『我われなんぢと共ともに死しぬべき事ことありとも汝なんぢを否いなまず』弟子でしたち皆みなかく言いへり。

36 爰こゝにイエス彼かれらと共ともにゲツセマネといふ處ところにいたりて、弟子でしたちに言いひ給たまふ『わが彼處かしこにゆきて祈いのる間あひだ、なんぢら此處ここに坐ざせよ』 37 斯かくてペテロとゼベダイの子こ二人ふたりとを伴󠄃ともなひゆき、憂うれひ悲かなしみ出いでて言いひ給たまふ、 38 『わが心こゝろいたく憂うれひて死しぬばかりなり。汝なんぢら此處ここに止とゞまりて我われと共ともに目めを覺さましをれ』 39 少すこし進󠄃すゝみゆきて、平󠄃伏ひれふし祈いのりて言いひ給たまふ『わが父󠄃ちちよ、もし得うべくば此この酒杯さかづきを我われより過󠄃すぎ去さらせ給たまへ。されど我わが意こゝろの儘まゝにとにはあらず、御意みこゝろのままに爲なし給たまへ』 40 弟子でしたちの許もとにきたり、その眠ねむれるを見みてペテロに言いひ給たまふ『なんぢら斯かく一ひと時ときも我われと共ともに目めを覺さまし居をること能あたはぬか。 41 誘惑まどはしに陷おちいらぬやう目めを覺さまし、かつ祈いのれ。實げに心こゝろは熱ねつすれども肉󠄁體にくたいよわきなり』 42 また二度ふたゝびゆき祈いのりて言いひ給たまふ『わが父󠄃ちちよ、この酒杯さかづきもし我われ飮のまでは過󠄃すぎ去さりがたくば、御意みこゝろのままに成󠄃なし給たまへ』 43 復またきたりて彼かれらの眠ねむれるを見みたまふ、是これその目め疲つかれたるなり。 44 また離はなれゆきて三みたび同おなじ言ことばにて祈いのり給たまふ。
 58㌻ 
45 而しかして弟子でしたちの許もとに來きたりて言いひ給たまふ『今いまは眠ねむりて休やすめ。視みよ、時とき近󠄃ちかづけり、人ひとの子こは罪人つみびとらの手てに付わたさるるなり。 46 起󠄃おきよ、我われら往󠄃ゆくべし。視みよ、我われを賣うるもの近󠄃ちかづけり』

47 なほ語かたり給たまふほどに、視みよ、十二じふに弟子でしの一人ひとりなるユダ來きたる、祭司長さいしちゃう・民たみの長老ちゃうらうらより遣󠄃つかはされたる大おほいなる群衆ぐんじゅう、劍つるぎと棒ぼうとをもちて之これに伴󠄃ともなふ。 48 イエスを賣うるもの預あらかじめ合圖󠄃あひづを示しめして言いふ『わが接吻くちつけする者ものはそれなり、之これを捕とらへよ』 49 かくて直たゞちにイエスに近󠄃ちかづき『ラビ、安やすかれ』といひて接吻くちつけしたれば、 50 イエス言いひたまふ『友ともよ[*]何なにとて來きたる』このとき人々ひとびとすすみてイエスに手てをかけて捕とらふ。[*或は「なんぢの成󠄃さんとて來れることを成󠄃せ」と譯す。] 51 視みよ、イエスと偕ともにありし者もののひとり手てをのべ、劍つるぎを拔ぬきて、大だい祭司さいしの僕しもべをうちて、その耳みゝを切きり落おとせり。 52 ここにイエス彼かれに言いひ給たまふ『なんぢの劍つるぎをもとに收をさめよ、すべて劍つるぎをとる者ものは劍つるぎにて亡ほろぶるなり。 53 我われわが父󠄃ちちに請󠄃こひて十二じふに軍ぐんに餘あまる御使󠄃みつかひを今いまあたへらるること能あたはずと思おもふか。 54 もし然しかせば斯かくあるべく錄しるしたる聖󠄃書せいしょはいかで成󠄃就じゃうじゅすべき』 55 この時ときイエス群衆ぐんじゅうに言いひ給たまふ『なんぢら强盜がうたうに向むかふごとく劍つるぎと棒ぼうとをもち、我われを捕とらへんとて出いで來きたるか。我われは日々ひゞ宮みやに坐ざして敎をしへたりしに、汝なんぢら我われを捕とらへざりき。〘43㌻〙 56 されど斯かくの如ごとくなるは、みな預言者よげんしゃたちの書ふみの成󠄃就じゃうじゅせん爲ためなり』爰こゝに弟子でしたち皆みなイエスを棄すてて逃󠄄にげさりぬ。

57 イエスを捕とらへたる者ものども、學者がくしゃ・長老ちゃうらうらの集あつまり居をる大だい祭司さいしカヤパの許もとに曳ひきゆく。 58 ペテロ遠󠄄とほく離はなれイエスに從したがひて大だい祭司さいしの中庭󠄄なかにはまで到いたり、その成󠄃行なりゆきを見みんとて、そこに入いり下役したやくどもと共ともに坐ざせり。 59 祭司長さいしちゃうらと全󠄃ぜん議會ぎくわいと、イエスを死しに定さだめんとて、僞いつはりの證據しょうこを求もとめたるに、 60 多おほくの僞證者ぎしょうしゃいでたれども得えず。後のちに二人ふたりの者ものいでて言いふ
 59㌻ 
61 『この人ひとは「われ神かみの[*]宮みやを毀こぼち三日みっかにて建󠄄たて得うべし」と云いへり』[*或は「聖󠄃所󠄃」と譯す。] 62 大だい祭司さいしたちてイエスに言いふ『この人々ひとびとが汝なんぢに對たいして立たつる證據しょうこに何なにをも答こたへぬか』 63 されどイエス默もだし居給ゐたまひたれば、大だい祭司さいしいふ『われ汝なんぢに命めいず、活いける神かみに誓ちかひて我われらに吿つげよ、汝なんぢはキリスト、神かみの子こなるか』 64 イエス言いひ給たまふ『なんぢの言いへる如ごとし。かつ我われなんぢらに吿つぐ、今いまより後のち、なんぢら人ひとの子この、全󠄃能者ぜんのうしゃの右みぎに坐ざし、天てんの雲くもに乘のりて來きたるを見みん』 65 ここに大だい祭司さいしおのが衣ころもを裂さきて言いふ『かれ瀆言けがしごとをいへり、何なんぞ他ほかに證人しょうにんを求もとめん。視みよ、なんぢら今いまこの瀆言けがしごとをきけり。 66 いかに思おもふか』答こたへて言いふ『かれは死しに當あたれり』 67 ここに彼かれ等らその御顏みかほに唾つばきし拳󠄃こぶしにて搏うち、或ある者ものどもは手掌てのひらにて批たゝきて言いふ 68 『キリストよ、我われらに預言よげんせよ、汝なんぢをうちし者ものは誰たれなるか』

69 ペテロ外そとにて中庭󠄄なかにはに坐ざしゐたるに、一人ひとりの婢女はしためきたりて言いふ『なんぢも、ガリラヤ人びとイエスと偕ともにゐたり』 70 かれ凡すべての人ひとの前󠄃まへに肯うけがはずして言いふ『われは汝なんぢの言いふことを知しらず』 71 かくて門かどまで出いで往󠄃ゆきたるとき他ほかの婢女はしためかれを見みて、其處そこにをる者ものどもに向むかひて『この人ひとはナザレ人びとイエスと偕ともにゐたり』と言いへるに、 72 重かさねて肯うけがはず契󠄅ちかひて『我われはその人ひとを知しらず』といふ。 73 暫しばらくして其處そこに立たつ者ものども近󠄃ちかづきてペテロに言いふ『なんぢも慥たしかにかの黨與ともがらなり、汝なんぢの國訛󠄂くになまりなんぢを表あらはせり』 74 爰こゝにペテロ盟うけひ、かつ契󠄅ちかひて『我われその人ひとを知しらず』と言いひ出いづるをりしも、鷄にはとり鳴なきぬ。 75 ペテロ『にはとり鳴なく前󠄃まへに、なんぢ三度みたびわれを否いなまん』とイエスの言いひ給たまひし御言みことばを思おもひだし、外そとに出いでて甚いたく泣なけり。〘44㌻〙

第27章

1 夜明よあけになりて凡すべての祭司長さいしちゃう・民たみの長老ちゃうらうら、イエスを殺ころさんと相あひ議はかり、 2 遂󠄅つひに之これを縛󠄃しばり、曳ひきゆきて總󠄂督そうとくピラトに付わたせり。
 60㌻ 

3 爰こゝにイエスを賣うりしユダ、その死しに定さだめられ給たまひしを見みて悔くい、祭司長さいしちゃう・長老ちゃうらうらに、かの三十さんじふの銀ぎんをかへして言いふ、 4 『われ罪つみなきの血ちを賣うりて罪つみを犯をかしたり』彼かれらいふ『われら何なんぞ干あづからん、汝なんぢみづから當あたるべし』 5 彼かれその銀ぎんを聖󠄃所󠄃せいじょに投なげすてて去さり、ゆきて自みづから縊󠄃くびれたり。 6 祭司長さいしちゃうら、その銀ぎんをとりて言いふ『これは血ちの價あたひなれば、宮みやの庫くらに納󠄃をさむるは可よからず』 7 斯かくて相あひ議はかり、その銀ぎんをもて陶工すゑつくりの畑はたを買かひ、旅󠄃人たびびとらの墓地ぼちとせり。 8 之これによりて其その畑はたは、今いまに至いたるまで血ちの畑はたと稱󠄄となへらる。 9 ここに預言者よげんしゃエレミヤによりて云いはれたる言ことばは成󠄃就じゃうじゅしたり。曰いはく『かくて[*]彼かれら値積ねづもられしもの、即すなはちイスラエルの子こらが値積ねづもりし者ものの價あたひの銀ぎん三十さんじふをとりて、[*或は「われ」と譯す。] 10 陶工すゑつくりの畑はたの代しろに之これを與あたへたり。主しゅの我われに命めいじ給たまひし如ごとし』

11 さてイエス、總󠄂督そうとくの前󠄃まへに立たち給たまひしに、總󠄂督そうとく、問とひて言いふ『なんぢはユダヤ人びとの王わうなるか』イエス言いひ給たまふ『なんぢの言いふが如ごとし』 12 祭司長さいしちゃう・長老ちゃうらうら訴うったふれども、何なにをも答こたへ給たまはず。 13 爰こゝにピラト彼かれに言いふ『聞きかぬか、彼かれらが汝なんぢに對たいして如何いかに[*]おほくの證據しょうこを立たつるを』[*或ば「重大なる」と譯す。] 14 されど總󠄂督そうとくの甚いたく怪あやしむまで、一言ひとことをも答こたへ給たまはず。 15 祭まつりの時ときには、總󠄂督そうとく群衆ぐんじゅうの望󠄇のぞみにまかせて、囚人めしうど一人ひとりを之これに赦ゆるす例れいあり。 16 爰こゝにバラバといふ隱かくれなき囚人めしうどあり。 17 されば人々ひとびとの集あつまれる時とき、ピラト言いふ『なんぢら我わが誰たれを赦ゆるさんことを願ねがふか。バラバなるか、キリストと稱󠄄となふるイエスなるか』 18 これピラト彼かれらのイエスを付わたししは嫉ねたみに因よると知しる故ゆゑなり。 19 彼かれなほ審判󠄄さばきの座ざにをる時とき、その妻つま、人ひとを遣󠄃つかはして言いはしむ『かの義人ぎじんに係かゝはることを爲すな、我われけふ夢ゆめの中なかにて彼かれの故ゆゑにさまざま苦くるしめり』 20 祭司長さいしちゃう・長老ちゃうらうら、群衆ぐんじゅうにバラバの赦ゆるされん事ことを請󠄃こはしめ、イエスを亡ほろぼさんことを勸󠄂すゝむ。
 61㌻ 
21 總󠄂督そうとくこたへて彼かれらに言いふ『二人ふたりの中うちいづれを我わが赦ゆるさん事ことを願ねがふか』彼かれらいふ『バラバなり』 22 ピラト言いふ『さらばキリストと稱󠄄となふるイエスを我われいかに爲すべきか』皆みないふ『十字架じふじかにつくべし』 23 ピラト言いふ『かれ何なにの惡事あくじをなしたるか』彼かれら烈はげしく叫さけびていふ『十字架じふじかにつくべし』 24 ピラトは何なにの效かひなく反かへつて亂らんにならんとするを見みて、水みづをとり群衆ぐんじゅうのまへに手てを洗あらひて言いふ『この人ひとの血ちにつきて我われは罪つみなし、汝なんぢ等らみづから當あたれ』〘45㌻〙 25 民たみみな答こたへて言いふ『其その血ちは、我われらと我われらの子孫しそんとに歸きすべし』 26 爰こゝにピラト、バラバを彼かれらに赦ゆるし、イエスを鞭むちうちて十字架じふじかにつくる爲ために付わたせり。

27 ここに總󠄂督そうとくの兵卒へいそつども、イエスを官邸くわんていにつれゆき、全󠄃ぜん隊󠄄たいを御許みもとに集あつめ、 28 その衣ころもをはぎて、緋色ひいろの上衣うはぎをきせ、 29 茨いばらの冠冕󠄅かんむりを編󠄃あみて、その首かうべに冠かむらせ、葦あしを右みぎの手てにもたせ且かつその前󠄃まへに跪ひざまづき、嘲󠄂弄てうろうして言いふ『ユダヤ人びとの王わう、安やすかれ』 30 また之これに唾つばきし、かの葦あしをとりて其その首かうべを叩たゝく。 31 かく嘲󠄂弄てうろうしてのち、上衣うはぎを剝はぎて、故もとの衣ころもをきせ、十字架じふじかにつけんとて曳ひきゆく。

32 その出いづる時とき、シモンといふクレネ人びとにあひしかば、强しひて之これにイエスの十字架じふじかをおはしむ。 33 斯かくてゴルゴタといふ處ところ、即すなはち髑髏されかうべの地ちにいたり、 34 苦味にがみを混まぜたる葡萄酒ぶだうしゅを飮のませんとしたるに、嘗なめて、飮のまんとし給たまはず。 35 彼かれらイエスを十字架じふじかにつけてのち、籤くじをひきて其その衣ころもをわかち、 36 且かつそこに坐ざして、イエスを守まもる。 37 その首かうべの上うへに『これはユダヤ人びとの王わうイエスなり』と記しるしたる罪標すてふだを置おきたり。 38 爰こゝにイエスとともに二人ふたりの强盜がうたう、十字架じふじかにつけられ、一人ひとりはその右みぎに、一人ひとりはその左ひだりにおかる。
 62㌻ 
39 往󠄃來ゆききの者ものどもイエスを譏󠄃そしり、首かうべを振ふりていふ、 40 『[*]宮みやを毀こぼちて三日みっかのうちに建󠄄たつる者ものよ、もし神かみの子こならば己おのれを救すくへ、十字架じふじかより下おりよ』[*或は「聖󠄃所󠄃」と譯す。] 41 祭司長さいしちゃうらも、また同おなじく學者がくしゃ・長老ちゃうらうらとともに、嘲󠄂弄てうろうして言いふ、 42 『人ひとを救すくひて己おのれを救すくふこと能あたはず。彼かれはイスラエルの王わうなり、いま十字架じふじかより下おりよかし、さらば我われら彼かれを信しんぜん。 43 彼かれは神かみに依より賴たのめり、神かみかれを愛いつくしまば今いますくひ給たまふべし「我われは神かみの子こなり」と云いへり』 44 ともに十字架じふじかにつけられたる强盜がうたうどもも、同おなじ事ことをもてイエスを罵のゝしれり。

45 晝ひるの十二じふに時じより地ちの上うへあまねく暗󠄃くらくなりて、三時さんじに及およぶ。 46 三時さんじごろイエス大聲おほごゑに叫さけびて『エリ、エリ、レマ、サバクタニ』と言いひ給たまふ。わが神かみ、わが神かみ、なんぞ我われを見み棄すて給たまひしとの意こゝろなり。 47 そこに立たつ者もののうち或ある人々ひとびとこれを聞ききて『彼かれはエリヤを呼よぶなり』と言いふ。 48 直たゞちにその中うちの一人ひとりはしりゆきて海綿うみわたをとり、酸すき葡萄酒ぶだうしゅを含ふくませ、葦あしにつけてイエスに飮のましむ。 49 その他ほかの者ものども言いふ『まて、エリヤ來きたりて彼かれを救すくふや否いなや、我われら之これを見みん』 50 イエス再ふたゝび大聲おほごゑに呼よばはりて息いき絕たえたまふ。 51 視みよ、聖󠄃所󠄃せいじょの幕まく、上うへより下したまで裂さけて二ふたつとなり、また地震ちふるひ、磐いはさけ、 52 墓はかひらけて、眠ねむりたる聖󠄃徒せいとの屍體しかばねおほく活いきかへり、〘46㌻〙 53 イエスの復活よみがへりののち墓はかをいで、聖󠄃せいなる都みやこに入いりて、多おほくの人ひとに現あらはれたり。 54 百卒長ひゃくそつちゃうおよび之これと共ともにイエスを守まもりゐたる者ものども、地震ぢしんとその有󠄃ありし事こととを見みて、甚いたく懼おそれ『實げに彼かれは神かみの子こなりき』と言いへり。 55 その處ところにて遙はるかに望󠄇のぞみゐたる多おほくの女をんなあり、イエスに事つかへてガリラヤより從したがひ來きたりし者ものどもなり。 56 その中なかには、マグダラのマリヤ、ヤコブとヨセフとの母ははマリヤ及およびゼベダイの子こらの母ははなどもゐたり。
 63㌻ 

57 日ひ暮くれて、ヨセフと云いふアリマタヤの富とめる人ひときたる。彼かれもイエスの弟子でしなるが、 58 ピラトに往󠄃ゆきてイエスの屍體しかばねを請󠄃こふ。ここにピラト之これを付わたすことを命めいず。 59 ヨセフ屍體しかばねをとりて淨きよき亞麻󠄃あま布ぬのにつつみ、 60 岩いはにほりたる己おのが新あたらしき墓はかに納󠄃をさめ、墓はかの入口いりくちに大おほいなる石いしを轉まろばしおきて去さりぬ。 61 其處そこにはマグダラのマリヤと他ほかのマリヤと墓はかに向むかひて坐ざしゐたり。

62 あくる日ひ、即すなはち準備そなへ日びの翌󠄃日よくじつ、祭司長さいしちゃうらとパリサイ人びとらとピラトの許もとに集あつまりて言いふ、 63 『主しゅよ、かの惑まどはすもの生いき居をりし時とき「われ三日みっかの後のちに甦よみがへらん」と言いひしを、我われら思おもひいだせり。 64 されば命めいじて三日みっかに至いたるまで墓はかを固かためしめ給たまへ、恐おそらくはその弟子でしら來きたりて之これを盜ぬすみ「彼かれは死人しにんの中うちより甦よみがへれり」と民たみに言いはん。然しからば後のちの惑まどひは前󠄃まへのよりも甚はなはだしからん』 65 ピラト言いふ『[*]なんぢらに番兵ばんぺいあり、往󠄃ゆきて力ちから限かぎり固かためよ』[*或は「汝ら番兵か用ひよ」と譯す。] 66 乃すなはち彼かれらゆきて石いしに封印ふういんし、番兵ばんぺいを置おきて墓はかを固かためたり。

第28章

1 さて安息あんそく日にちをはりて、一週󠄃ひとまはりの初はじめの日ひのほの明あかき頃ころ、マグダラのマリヤと他ほかのマリヤと墓はかを見みんとて來きたりしに、 2 視みよ、大おほいなる地震ぢしんあり、これ主しゅの使󠄃つかひ、天てんより降󠄄くだり來きたりて、かの石いしを轉まろばし退󠄃のけ、その上うへに坐ざしたるなり。 3 その狀さまは電光いなづまのごとく輝かゞやき、その衣ころもは雪󠄃ゆきのごとく白しろし。 4 守まもりの者ものども彼かれを懼おそれたれば、戰おのゝきて死人しにんの如ごとくなりぬ。 5 御使󠄃みつかひ、こたへて女をんなたちに言いふ『なんぢら懼おそるな、我われなんぢらが十字架じふじかにつけられ給たまひしイエスを尋󠄃たづぬるを知しる。 6 此處ここには在いまさず、その言いへる如ごとく甦よみがへり給たまへり。來きたりてその置おかれ給たまひし處ところを見みよ。 7 かつ速󠄃すみやかに往󠄃ゆきて、その弟子でしたちに「彼かれは死人しにんの中うちより甦よみがへり給たまへり。視みよ、汝なんぢらに先さきだちてガリラヤに往󠄃ゆき給たまふ、彼處かしこにて謁まみゆるを得えん」と吿つげよ。視みよ、汝なんぢらに之これを吿つげたり』〘47㌻〙
 64㌻ 
8 女をんなたち懼おそれと大おほいなる歡喜よろこびとをもて、速󠄃すみやかに墓はかを去さり、弟子でしたちに知しらせんとて走はしりゆく。 9 視みよ、イエス彼かれらに遇󠄃あひて『安やすかれ』と言いひ給たまひたれば、進󠄃すゝみゆき、御足みあしを抱󠄃いだきて拜はいす。 10 爰こゝにイエス言いひたまふ『懼おそるな、往󠄃ゆきて我わが兄弟きゃうだいたちに、ガリラヤにゆき、彼處かしこにて我われを見みるべきことを知しらせよ』

11 女をんなたちの往󠄃ゆきたるとき、視みよ、番兵ばんぺいのうちの數󠄄人すにん、都みやこにいたり、凡すべて有󠄃ありし事ことどもを祭司長さいしちゃうらに吿つぐ。 12 祭司長さいしちゃうら、長老ちゃうらうらと共ともに集あつまりて相あひ議はかり、兵卒へいそつどもに多おほくの銀かねを與あたへて言いふ、 13 『なんぢら言いへ「その弟子でしら夜よるきたりて、我われらの眠ねむれる間まに彼かれを盜ぬすめり」と。 14 この事こともし總󠄂督そうとくに聞きこえなば、我われら彼かれを宥なだめて汝なんぢらに憂うれひなからしめん』 15 彼かれら銀かねをとりて言いひ含ふくめられたる如ごとく爲したれば、此この話はなしユダヤ人びとの中うちにひろまりて、今日けふに至いたれり。

16 十じふ一いち弟子でしたちガリラヤに往󠄃ゆきて、イエスの命めいじ給たまひし山やまにのぼり、 17 遂󠄅つひに謁まみえて拜はいせり。然されど疑うたがふ者ものもありき。 18 イエス進󠄃すゝみきたり、彼かれらに語かたりて言いひたまふ『我われは天てんにても地ちにても一切すべての權けんを與あたへられたり。 19 然されば汝なんぢら往󠄃ゆきて、もろもろの國人くにびとを弟子でしとなし、父󠄃ちちと子こと聖󠄃せい靈れいとの名なによりてバプテスマを施ほどこし、 20 わが汝なんぢらに命めいぜし凡すべての事ことを守まもるべきを敎をしへよ。視みよ、我われは世よの終󠄃をはりまで常つねに汝なんぢらと偕ともに在あるなり』〘48㌻〙
 65㌻